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短編5話

「樹さん、今日何の日か知ってる?」  風呂から出てきた優志が楽しそうに尋ねてくる。  両手に持った缶ビールの片方を差し出しながら、樹の隣りに座る。ソファーの中で距離を詰め、樹を見つめる優志の顔はニコニコと楽しそうだ。 「何かの日だったっけ?」 「うん、何かの日だよ」 「……?お前の誕生日でもないし、オレのでもないし…祝日でもないよな?」  あまりカレンダーと関係ない仕事をしているせいか、曜日感覚があやふやなので、もしかしたら今日が祝日かと考えてみるが5月の祝日はGWで終わっている筈だ。  樹は暫く考えるように虚空を睨んでいたが、諦めたのかあっさりと聞いてきた。 「何の日なんだ?」 「分からない?」 「分からないよ、ヒントは?」 「ヒント……えーっと……樹さんがした事のある日です、あ、因みに恋文の日でもあるけど、そっちじゃないよ」 「恋文の日?」 「そう、こいぶみ、523で恋文の日、ラブレターの日なんだって」 「……そうか、語呂合わせだな……で、それじゃないって…?」  そもそも恋文の日も思いつかなかったが……と思いながらも、とりあえず考えるポーズを取る。優志はそんな樹をつまみに美味そうにビールを煽る。  白い喉が上下する様をちらりと見て、もうベッドに行ってもいいんじゃないだろうかと樹は別の事を考え始めていた。 「あ、真面目に考えてないでしょ」 「考えてるよ」  樹の考えが読めた筈もないが、優志は鋭く突っ込んだ。 だが、このままだと一向に答えが出てこないと思い、もう一つヒントを口にした。 「えっと、それはー……誰かとするものです」 「……優志とはした事あるのか?」 「あるよ」 「優志以外の人ともした事ある?」 「んー……あるよね……」 ちょっと考えてから答える。少しだけ声のトーンが落ちる。 「ある?誰とでも?」 「誰とでも……っていう訳じゃないけど……場合によっては初対面とかでもするし……」 「初対面……?握手の日?」 「違うけど、方向性はあってる気がする」  初対面、初対面とぶつぶつ言いながら樹は再度考え込む。とりあえず、寝室行きは保留にしたらしい。 優志同様缶ビールのプルタブを上げ、考えるようにちびちびと飲み始める。 「ハグ?」 「もうちょっと突っ込んでいいんだけど」 「……?あ、セックス?」 「違うし、ていうか、初対面でしないでしょ……そもそもセックスの日なんてあるのかな?」 初対面でしないと言いながら、いや、自分達はしたなと思い返す。だが、それは今言うべき言葉ではない。 「……さぁな……違うか……じゃあ、なんだ?」 「初対面で、ていうか、挨拶でする国もあるかな……日本じゃしないけど……」 「あぁ……じゃあ、キス?」 「ピンポーン、正解です」  優志が可笑しそうに笑う。樹は缶ビールをテーブルに置いて、優志の腰を抱き寄せた。密着した箇所から熱がじわりと伝わってくる。  ビールでか、それとも距離にか、優志の頬が少し上気する。その顔を楽しそうに見つめ、耳元に唇を寄せた。 「……正解者には何か出ないのか?」 「何か欲しい?」 「欲しいよ、そりゃ……今日はキスの日なんだろ?」 「……うん、じゃあ、キスの日だから……賞品はキス、でいい……?」 「あぁ」  樹が返事をするのを待って、優志は唇を近付けた。ちゅっと音を立て、直ぐに離れたキスに樹が苦笑を漏らす。 「これだけ?」 「……賞品だからこれだけ……」 「あぁ……でも……」 「でも?」  樹は横目でちらりと壁時計を見やる。優志もつられた様にそちらに視線を向ける。長針が進み日付が変わる、キスの日である23日が終わり24日になった。 「もう24日だから……今日はセックスの日にしてしまおうか」 「……セックスの日じゃなくてもするくせに」  尖らせた唇の上にさっき優志がくれたように軽いキスを落とす。優志もそれは不満だったようで、今度は腕を伸ばし樹に強請るように顔を寄せてきた。 「……セックスの前に、もっとちゃんとしたキスしたい……」 「キスの日は終わったけど?」 「……したくないの?」 「したいよ、キスの日でも、セックスの日じゃなくても、いつでもお前としたいよ」 「ん……オレも」  どちらからともなく仕掛けたキスは直ぐに深いものへと変わり、抱き合うままに二人はソファーへ沈んだ。 キスの日/完

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