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第3話 

 大事にケーキを抱えマンションの中へと入る。いつもの遣り取りをして、エレベーターで5階へ上がった。 「優志」  エレベーターを降りると、待ちきれなかったのか、樹は廊下に出て優志を待っていた。  優志は駆け寄りたい気持ちのまま、ケーキがあるのでなるべく慎重に樹の所まで早足で歩いた。 「樹さん」  直ぐにでも抱きつきたいが、まずはケーキだ。  玄関から部屋の中に入ると、一番言いたかった事を優志は言った。 「樹さん、お誕生日おめでとう……」 「……ありがとう、優志」 「あの、これ……美月ちゃんと一緒に作ったんだ……」 「……一緒に?」 「うん」 「開けていいか?」 「うん」  二人してリビングまで行き、そこでケーキの箱を開けた。  売り物のケーキのような豪華さなどはないけれど、十分に美味しそうに見えるケーキだ。美月と一緒に作ったので、優志も自信を持っていた。 「お、すごいな、ありがとう、優志」 一目見るなり樹が相好を崩す。眼鏡の奥で嬉しそうに細められた瞳を見て、優志も安堵の表情を作った。 「……うん、美月ちゃんとっていうか、ほとんど美月ちゃんがやってくれて、オレはその手伝いって感じだったけど」 「いや、でもすごいよ、ありがとう……美月と作ったって……優志の部屋でか?」 「ん、違うよ、オーブンとかないから、美月ちゃんの家で」 「家……?実家に行ったのか?!」 驚いたような声は大きく、優志は間違えてしまったと思い焦りながら謝った。 「あ、あの、ごめんなさい、でも作る場所なくて……オーブンとかも……ないから……ごめんなさい……」 「謝らなくてもいいんだ……誰かと会ったか?」  樹は苦笑を浮かべながら聞いてくる。優志は申し訳なさそうにそれに答えた。 「……お、お母さんと……あ、お母さんなんて言っちゃだめだよね、えっと」 「いたのか?!」 「……手伝ってくれた……オレ、お母さんとか呼んじゃって……だめだよね、ごめんなさい……」 「……美月の友達として行ったんだろ?」 「うん、紹介はそうされたから、樹さんとの事は言ってないよ」 樹に怒ったような様子はないが、それでも優志の中では心配と不安が膨らんでいく。 「……そうか、何か言ってたか?」 「あ、うん、今度はちゃんと樹さんといらっしゃいって、言ってた……」 「……」 「ごめん、ばれてはいないと思うんだけど……オレ行かない方が……」 「お前が謝る事はないから」 「でも……」 「優志」  強い口調に優志は無意識に項垂れていた顔を上げ、樹を見つめた。ソファーの中で並んで座る樹の表情はいつもの優しさがあった。  少しだけほっとして、ネガティブな事ばかり言っていた自分を恥じた。 「優志……今度、一緒に家に帰ろう」 「……いいの?」 「当たり前だろ」 「……でも……」 樹は自分の態度を心配して気を使って提案してくれてるのかと思った。でも、そうではなく本気で言っているのだと、樹の目が語っている。 「ちゃんと、紹介しないとな」 「……いいの?本当に……」 「あぁ……でも、まだお前の家に行く勇気はないんだけどな……」 「オレの家はいいよ、別に……」 「よくないよ、でも、いずれな……行くよ、ちゃんと挨拶しないと……優志と一緒にならせてくれって……言わないと」 「……」  真っ赤になった優志を樹は優しく抱き寄せた。また俯いてしまったけれど、今度は照れているだけなのだろうと思うと樹も恥ずかしくなってきてしまった。  その空気を押しのけるように、樹は明るい声を出した。 「じゃあ、ケーキは後で食べるとして……まだ早いけれど夕飯とかどうしようか……昼は食ったか?」 「あ、うん、お昼はさっき貰って食べた……」 「そっか」 「あ……オレ……夕飯とか……考えてなくて……」 「ん?」 「……折角樹さん誕生日なんだから、どこかお店予約すればよかったのに……何もしてない……」 言いながら誕生日プレゼントの事しか考えていなかったと反省する。折角の誕生日なのにと思うと、申し訳なくなってくる。 そんな優志の気持ちに気付いてか、樹は背中に当てたままの手をゆっくりと上下に撫でた。 「いいって、そんなの」 「よくないよ……だって誕生日なのに……」 「じゃあ、今日は優志の手料理かな」 「………でも、それじゃあ……そんなに美味しくないから……だったら、ちゃんとしたお店の方が……」 「別にそんなちゃんとした店、とかいいよ、優志が作ってくれるのならオレは嬉しいけどな」 「……ホント?」 「あぁ」 嘘を言っているようには思えない、樹の言葉を信じて優志はひとつ息を吐き出し、はにかむように笑った。 「……がんばって作るね……あまり大したものは出来ないけど……」 「何でもいいよ、じゃあ、買出しに行かないとな」 「うん」 返事をしながら、来年はちゃんと樹の誕生日は過ごし方も考えなければと心に刻んだ。

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