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第8話
「……はぁ……はぁ……」
しっとりと汗をかき、肩で息をしていた優志は徐に樹に抱きつくと、まだ青臭い唇にキスをした。
自分の出したものの味がする唾液を共有するように、口内を舐めまわす。くちゅくちゅと水音が零れ、口の端から唾液が落ちても構わずにキスを続けた。
「……樹さんの……する……」
キスが終わると、優志は樹の着ているものを脱がしに掛かった。ベッドへ行って最後までしたいと思ったが、そんな余裕は優志には残ってなかった。限界まで昂ぶらされ、今直ぐにでも樹が欲しくて堪らなくなっていた。
床に膝を付き、立ち上がり出していた樹のペニスを手でやわやわと扱きながら先端から舐めていく。
舐めながら樹を見上げると、熱の籠もった視線で見つめ返された。どきりとして慌てて目を伏せる。
頑張って喉の奥へと導くが、あまり得意ではないのですぐにえずきそうになる。無理しなくてもいいよ、とでもいうのか優しく優志の髪を樹が撫でる。
ちらりとまた樹を見上げてから、優志は夢中で口淫に耽った。苦味が口の中に広がって、口に含んでいるのが辛くなる程に膨れたそれに一生懸命に吸い付いていると、突然優志の尻の中心に知った痛みが走った。
「……樹さん……?」
「もうそろそろいいよ、優志」
「ま、待って……」
腕を伸ばし、まだ閉じている後孔に指を埋めようとしている樹を制するが、あまり効果はないようだ。唾液で濡らしたのだけの指では、まだ解されていない孔に入れるのには無理があった。
「ベッド……いこ、ローション……ないでしょ?」
「大丈夫……優志、こっち……」
「え……?」
腕を引かれ、ソファーへと引き上げられる。そのまま直ぐに押し倒されると、腰を高く持ち上げられ大きく足を開かされた。
「え?!や、ちょ……!」
突然の事で何が起きたのか追いつかないままに、優志の股間に樹は顔を埋めてしまう。
「……!!だ、だめだってば……ぁ、や……!」
足の間から見える樹はにやりと笑みを浮かべると、優志の後孔に舌を差し入れてきた。唾液を含み、そこを濡らし吸い付く。舌先が入り込む度に慣らされているそこは、これから与えられる快楽を待ち焦がれるようにきゅっと伸縮した。
指とは違う感覚に戸惑い、いつもと違う姿勢に戸惑い、更にいつもと違いソファーでしている事にも戸惑う。おろおろとしていた優志だったが、与えられる快感が強烈過ぎて、思考が曖昧に曇っていく。
「だめ……やぁあ……んん……!」
「だめじゃないだろ、きれいにしたんだろ……?いい匂いするよ」
確かに中まで洗ってはきた、だけど、だからと言って舐めるのは反則だ。羞恥の為に全身を桜色に染めた優志を見る樹の瞳は、小動物を甚振って愉しむ肉食獣のように輝いていた。
「優志……直ぐに気持ちよくしてあげるから……」
「ぁあ、だめ……」
「だめじゃないだろ……」
「んん……!」
柔かくなった肉壁の中に指が入り込んでくる。孔の周りを舌が舐め、中では樹の指が器用に泳ぐ。優志の体の事を知り尽くしている樹の指は違わずに、一点を強く押し上げた。
「……あぁああ……!」
一際高い嬌声が上がる。それに気を良くしたのか、樹は前立腺を立て続けに責め上げた。
増やされた指でぐぐっと押し上げられ、更に立ち上がり涎を零していたペニスは再び樹の口の中に含まれた。強く吸い付かれると、一気に限界まで押し上げられるようだ。
「や、ぁあ……だめ、そん、なにぃ……しな、あぁあん……!」
ぎゅっと目を瞑った拍子に溜まっていた涙が零れた。だけどそんな事には気付かず、また瞳を開けると樹がじっとこちらを見つめていた。
指が引き抜かれ、このまま今度は樹が中に入ってきてくれるのだと思うと、どうしても期待して胸が高鳴ってしまう。
「……樹さん……」
「……優志、もうちょっとな……」
「……え……?」
「もう少し、慣らして……ここもな……」
「え?な、なに……?!」
「ローション代わり」
「ええええ?!」
そう言った樹の指には白いクリームが。テーブルに放置していたケーキの生クリームを掬い取ったという事は直ぐに分かったが、それをこんな事に使われるとは思わなかった。
樹はクリームを優志の後孔に擦り付けると、さっきしたように深く指を埋めてきた。滑り具合を確かめるように抜き差しして、またクリームを足して入れ直す。
「樹さん、ケーキ……!」
「あぁ、大丈夫、全部使わないから」
「いや、そうじゃなくてぇ……!」
「ここに塗っても美味しいよ、優志」
「ひゃあ……!」
指で掻き回されながらも、舌先は悪戯に孔の周囲を突付く。唾液だけよりは滑りのよくなったそこに樹は自身を宛がった。
「……痛かったらごめんな」
「え……ぁあ……!」
正面からぐっと押し入ってきた圧倒的な物量に、呼吸が一瞬止まる。優志の息遣いを見ながら、樹はゆっくりと全てを中に埋めようとした。
肉壁を押し広げながら樹が入ってくる、ローションよりも滑りが足りないのかいつもよりも痛みは感じたが、それでも繋がった事の悦びの方が優志の中で勝っていた。
「……樹さん……」
「大丈夫か……?」
「……ん……うん……」
汗を滲ませて、眉間に皺を寄せながらも健気に頷く優志の額に優しいキスが落ちる。
優志はもっとキスが欲しくて強請るように唇を突き出した。
「……優志」
キスを交わしていると、樹が腰を遣い出した。始めはゆっくりと、だけどキスが深まるにつれてその動きも大きく激しいものへと変わっていった。
中を抉るように貫かれ、痛みも感じていたのに、体の中から拡がっていく甘い痺れは優志の体内を快楽で支配した。
快楽の波に溺れたように喘ぎ、開いた口からは唾液と甘ったるい嬌声が零れる。耳を塞ぎたくなるような甘ったるい声なのに、樹はいつものようにそれをもっと聞きたいと言ってくれる。
「……かわいいよ、優志……」
「や、あぁ……んん……」
「……もっと、啼いて……」
緩急を付けて抜き差しを繰り返され、体の中は柔かく溶けてしまいそうだ。入れられる前から限界に近付いていた優志にはこの甘い責苦に耐えられそうになかった。
「樹さん、オレ……も、ぁあ……ん、めぇ……もぅ、いきそ……」
「……あぁ……でも、もう少しな……」
「や……あぁ……!」
まだいってはダメだと言うように、優志のペニスを樹の手が強く握りこむ。根元から遮断するように握り込まれ、だけど抽送は続いているので優志はいきたくてもいけない苦しみを味わう事になった。
「いつき、さん……!ぁあ、そこ、ばっか……やだぁ……!も、オレぇ……だめ、いきたいぃ……!!」
「ごめんな、もう少し……一緒にいこうな……」
泣いて懇願しても中々樹はその手を放してはくれなかった。辛くて、だけど、一緒に、なんて言われたら優志は我慢するしかなかった。優志だって樹と一緒に昇り切りたいから。
「ぁあ……んぅ……んん……」
揺さぶられているうちに樹の怒張がさっきよりも質量を増す、そろそろだと思っていると先程までは快楽を塞き止めようとしていた樹の手が優志のペニスを扱き始めた。
「……ぁ、いつき、さん……」
「……一緒にな」
「うん……いっしょぉ……!」
樹が一緒に、と言ってくれるのが嬉しくて優志は笑った。
「優志……!」
名前を呼ばれ、自然にそれが合図だと分かった。意図した訳ではないけれど、優志はその言葉に従うように樹が扱いてくれるままに欲望を吐き出した。
「あぁぁぁ……!」
「……くっ……!」
そしてそれと同時に、体の奥深くで樹が熱い滾りを吐き出した。それを全て飲み込もうと、樹の肉壁は搾り取るような動きで樹のペニスを締め上げた。
「……優志……」
樹も同じように全てを吐き出すように、数回扱き残滓を手の中へ吐き出させた。ぐったりとしてソファーに沈むと、ゆっくりと樹が中から出て行った。
「……はぁ……」
「……樹さん……」
離れた熱を追うように手を伸ばすと、樹は柔かく笑って優志の体を抱きしめた。熱い溜息を吐き出し、樹の腕に抱きしめられるまま体重を預ける。
気だるい視線をテーブルに向けると、そこには無残にも崩れたケーキが目に飛び込み、優志の疲れと羞恥は一気に吹き飛んだ。
「け、ケーキが……!」
「……あぁ……」
樹がローション代わりにと生クリーム掬った時点で相当崩れてはいたが、冷房が効いているとはいえ9月の室温で生クリームはだれ皿にべたりと落ちていた。更に上に乗っていた苺が転げ落ちている。
折角キレイにカットして明日食べようと残しておいたケーキなのに……。
「ごめんな……」
「……」
樹だけが悪い訳ではない。ローション代わりに使ったけれど、カットして直ぐに冷蔵庫に仕舞わなかったのは自分だ。そしてこのケーキは樹にプレゼントした物なので、その所有者がどう扱おうと優志には文句のつけようがなかった。
だけど、少しだけケーキが可哀想だと思ってしまったのだ。その残念そうな表情が顔に出ていたのだろう、樹は更に申し訳なさそうに呟く。
「そうだよな……折角作ってきてくれたのにな……本当にごめんな……」
「……樹さん……そんなに謝らないでよ……これは……樹さんにあげた物なんだし……その……オレも……して欲しかったし……」
「……優志」
ちゅっと額にキスが落ちる。樹は手を伸ばしテーブルの下に置いてあったボックスティッシュから数枚引き抜き、それで優志の下腹部を拭き始めた。
「ありがとうな……残りはちゃんと食べるよ、冷蔵庫に入れておけば食べられそうだもんな……ホント、美味かったよ」
「……ん」
ティッシュだけでは拭ききれない、というか生クリームのせいで尻の辺りがいつもと違うベタベタ感がある。二人はそれならばともう一度風呂へ入り直す事にした。
風呂へ行く前にケーキは樹が冷蔵庫に仕舞ってくれた。それを見て安心して優志は樹に伴われ、風呂場へ向かった。
風呂場でもう一回して更にベッドでもう一回、くたくたにはなってしまったけれど、優志は幸せな疲労感で樹の誕生日を終えた。
しかしその後美月にケーキの感想を聞かれ、真っ赤になりシドロモドロで恥ずかしさを必死に隠す事になるのはまた別のお話。
完
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