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短編7
「オレ今の仕事終わったらまとまった休み貰えそうなんだ!」
「どの位休み貰えそうなんだ?」
「うん、一週間位かなー」
「そうか、良かったな」
「うん」
全く休みがない訳ではなかったが、アクターズが終わってからは何かと忙しかった、一週間丸々休みというのは久しぶりなのだ。
普段休みが欲しいとは言わない優志ではあるが、まとまった休みは別だ。
きっと以前だったらこんなに素直に喜んでいないのだろうな、と思った。以前の自分だったら、一週間休みがあったとして次の仕事がちゃんと一週間後にあるのか不安で仕方なかった。
次があってもその次はない、なんて事沢山あったし……まぁ、バイトがあったから休みと言っても本当の意味でのオフなんてほとんどなかったけれど。
だけど、バイトでもまだ働ける場所があるだけいいと思っていた。
今、不安がないと言えば嘘になるけど、だけど何とかなる、何とか出来るって思えるようにはなったのだ、少しだけ自信も持てるようになった。
それは今までやってきた仕事から得た自信だ。これからもこの道を進んでいくんだっていう気持ち、この道でいいんだっていう自分への信頼だ。
「休み貰えるって言ったらね、みんな遊ぼうって言ってくれたり、舞台見に来いって言ってくれたりしたんだ」
嬉しそうに優志が言う。同業者の友達は少なかった、というより同じ事務所の人間ですら一緒に遊びに行くのは孝介位のものだったのだ。
アクターズに出演してから繋がった人間関係、そこから派生していく人間関係を大事にしていきたいと思っていた。
だから、こうして遊びに行こうと誘ってくれたり、今の仕事である舞台を見に来て欲しいと言われたりするのはとても嬉しく、幸せな事だ。
「そっか、あまり遊んだりしてなさそうだもんな、優志」
「うん、だからこの機会にいつもやれない事やろうと思って……そしたら何か休みの間中ずっと出かける感じになっちゃったんだけどね……」
休みが潰れると言いながらも、その表情は変わらず楽しそうだ。充実した休日を過ごせるという証拠だろうと、隣に座る樹は思った。
「ずっとね、旅行とか行きたいよねーって言ってて、アクターズで一緒だった穂高君の実家が旅館なんで皆で泊まりに行く事になったんだ」
「旅行か、いいな、どこまで行くんだ?」
「伊豆の方、お刺身とか美味しそうだし楽しみ」
「伊豆か、いいな」
「あとね、太一君の舞台と、健吾君の舞台を見に行って、あとカラオケ行くのとボーリングも!」
「そうか、本当に遊び倒す感じだな」
「うん、楽しみ、旅行なんて修学旅行以来だよ!泊まりの撮影とかはあったけど、やっぱ違うもんね」
「そうだな」
ニコニコと話す優志を樹もニコニコと聞いていたが、内心では穏やかではなかった。
……そんなに休みなのに、オレとの約束は作らないんだな……。
言葉にはしないが、ちょっとだけ拗ねてみたい気持ちになる。というか、寂しいし切ない。勿論言葉に出したりはしないが。
「でね……樹さん……あの…お願いが……」
「お願い……?」
「うん……」
言いにくそうに口をもごもごさせている優志を励ますように、言ってみろと優しく促す。
すると、何かを決心したように真面目な顔付きで優志が口を開いた。
「あの、休みの間……泊まりに来てもいい……?」
「え?」
「あ、あの、仕事、忙しかったらいいんだ、ごめんね、締切前とかだよね、急に……言ってごめんなさい、なんでもない!」
早口で捲し立てると優志は気まずそうに黙り込む。樹は言葉を間違えたと気付き、優志の肩を叩き俯いた顔を上げさせた。
「優志」
「……一日、位でも……いいんだ……」
縋るような瞳が樹を見つめる。そんな目で見なくても断る筈がないのに。
どうしていつまでも恋人という関係に自信を持ってくれないのだろうか、少しだけ歯がゆく思う。
「一日なんて言わないで、ずっと居たらいい」
「……ホント?」
「勿論、構わないよ」
「……ありがと……その……結構予定埋まっちゃってるんだけど……だけど……オレ……折角の休みだし、樹さんと一緒に居たいんだ……わがままだよね……」
「我侭なんかじゃないよ、オレは一緒に居たいって思って貰えるのは嬉しいよ」
「……樹さん……」
甘い雰囲気が二人を包む。このままソファーで押し倒してそのまま抱いてもいいだろうか、などと不埒な考えを樹が思い描いているとも知らない優志は笑みを浮かべると、早速スマホを弄りだした。
「あのね、オレ一緒に行きたい映画があったんだ、確か近くの映画館でやってる筈……調べるね!」
「……映画?」
「うん、デート……したい……」
指を画面に滑らせながら俯いた顔は照れているようだ。多分自分でデートと言って照れているのだろう。
「いいよ、デート、したいな」
「うん……」
少しだけからかってみたくなり、樹は優志の耳に息が掛かるほど近くに唇を寄せた。
「デートしてそのままホテルにでも泊まってみるか?」
「え?!」
「ラブホ、男同士でも入れるとこあるだろうし」
「え??!」
「いやか?」
「……」
見る間に顔を赤らめて、だけどその表情は満更でもなさそうだ。デートプランはお気に召して貰えたのだろうか?
「優志?」
「……で、でも、その……やっぱり、慣れてるとこの方がいいから……樹さん家にお泊りデートしたい……」
「お泊りデートか」
「うん」
「……いいよ、デートもいいけど、今はオレを見て欲しいな」
「え……」
スマホを取り上げると、驚いたような顔で優志が見つめてくる。まだ赤みの残る頬にキスを落とし、先ほど考えたプランを今度そこ実行に移す。
「優志……で、今日も泊まっていくよな?」
ソファーへ押し倒しながら聞けば、恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに優志が頷いて笑った。
完
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