28 / 50

短編9

「桜も散っちゃったね…」 樹の部屋に来ていた優志は、テレビに写る東北地方の桜の風景を羨ましく見つめた。 今年は開花が遅かったとはいえ4月下旬の今、都内での花見は望めそうもない。 その残念そうな呟きに、樹は苦笑を浮かべながら隣に座る優志の肩を抱き寄せた。 「来年は花見に行こうな」 「……え?」 「一年前から計画しておけば、行けるだろ?」 「……うん」 はにかんだような笑顔を浮かべ、抱かれるままに樹に寄り添う。 嬉しくて、でも照れくさい。恋人として付き合うという事にまだ慣れないのだ。 そんな優志の心を分かってか、樹は優しく髪を撫で、囁く。 「花見だけじゃなく、優志の行きたい所、沢山行こう」 ゆっくりでと言ってくれる樹の優しさに、心の中が温かくなる。 「どこに行きたい?」 「……うん……」 少し考えて口を開く。 「……動物園……パンダ見たい……」 「動物園か」 「混んでるかな……?」 「平日行けば大丈夫だろ、あとは?」 「水族館」 「他には?」 「映画も行きたい」 「デートみたいだな」 「うん……樹さんと……デートしたい……」 ずっとずっと、それは願い続けてきた事。絶対に叶わないと思っていた。 「……言っちゃいけないと思ってた……」 「……どうして?」 「だって、恋人じゃないから……」 寂しそうに笑う優志の目元に唇を寄せ、ぎゅっとその体を抱きしめる。 片思いの悲しかった、寂しかった思い出は樹の熱が溶かしてくれた。今はもうそんな寂寥感はない、もうそれも思い出だ。 優志も樹の背中を抱きしめ返しながら、もう寂しくなどないと言うように明るい声を出した。 「樹さん、デートしよ……」 「あぁ」 「いっぱい行きたいとこあるんだ、二人で行きたいと……いっぱいある」 「あぁ」 「旅行も行きたい……オレ、海外行った事ないから海外行きたい」 腕を放し、樹を正面から見つめる。 「それもいいな」 「うん、温泉もいいな、樹さんは行きたいとこある?やりたい事ある?」 「そうだな……色々あるよ」 「どこ?」 楽しそうに笑う優志を樹も楽しそうに眺める。 「お前が行きたい所」 「……ないの?」 「どこでもお前となら楽しいだろうからな」 「じゃ、じゃあやりたい事は?オレね、ダイビングやりたい」 「そうだな……」 暫し考え込み樹はニヤリと笑った。何だか良からぬ事を考えているような笑みに、答えを聞きたくないような気持ちになりながらも樹を見つめる。 「内緒だ」 「あ!ずるい、オレ言ったのに」 「聞きたいのか?」 「うん」 思いっきり肯定する優志は先程の笑顔を忘れてしまったようだ。 「……でも今は言えないな」 「えー、今じゃなきゃいつ言うの?」 「ベッドの中だよ」 「……!」 樹の答えに真っ赤になりながらも、それでも優志は健気に頷いた。 「……教えて」 「……いいのか?」 「だって……恋人として……樹さんがしたいこと一緒にしたい……」 「……優志」 「わっ!樹さん?!」 突然ぎゅっと抱きしめられ、狼狽えているとソファーに押し倒されてしまった。 「えっ、樹さん?!」 「お前がかわいい事言うからガマンできなくなった」 「えっ?!」 「……オレがしたいことなら一緒にしたいんだよな……?」 「……」 さっき言ったばかりの事を否定出来ず困っていると、本当にガマン出来ないのか本気のキスを仕掛けられた。 「……ん……」 翻弄され陥落してしまう。でも、恋人だから。 「樹さん……」 「ん?」 「ベッド……いこ……」 恥じらいながらの提案は快く受け入れてもらえたようだ。だが、それは優志の予想を超えたものだった。 「おっ、下ろしてよ!」 「暴れるな、落っことしちまうだろ」 「……重いでしょ……腰痛めちゃう……」 「そう思うなら大人しくしていてくれ」 「……」 お姫さまだっこなんて初めてで、真っ赤だった顔は火が出そうな程に更に赤みを増した。 「したい事できたな」 「……したい事?」 「お姫さまだっこ」 「……」 静かにベッドに下ろされる。優志は衝動のまま、下から樹に抱きついた。 「……じゃあ、オレもしたい事する」 「なんだ?」 「……うん、いっぱい…好きって言う……」 「……一緒だな」 「うん」 抱きしめてくれる熱い腕を感じながら、優志は幸せの中に浸った。 完

ともだちにシェアしよう!