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第2話
JRから私鉄に乗り換え、優志の部屋のある駅に着いたのは23時近かった。
昼間は30度近くまで気温の上がる日が多いが、夜は風が火照った体に心地よかった。
6月に入りじめじめとする日も多い、そろそろ梅雨が始まる頃だ。
タクシーで帰るか尋ねた優志に、樹は酔い醒ましにもなるから歩いて帰ろうと言った。
「お前が住んでるのがどんなとこが知りたいしな」
「……お店とか閉まってるけどね……」
あ、でも深夜まで開いているスーパーとコンビニもあるけど。そうだ、何か必要な物はないだろうか?そう思った優志はアパートまでの道のりにあるコンビニに寄って行ってもいいか尋ねた。
「そうだな、下着とか買わないとか」
「うん、あと明日の朝御飯もないし」
「そうか」
アパート近くのコンビニに寄り、樹の下着と明日の朝食用のパン、ヨーグルト、お茶のペットボトルを購入した。
荷物は樹が持つと言ってくれたので、その言葉に甘える事にしてアパートへ向かった。
「駅から近いな」
「うん、そう、便利なんだー」
築年数は古いが駅からの所要時間の短さでこの部屋を選んだのだ。父と兄にはもっとマシな部屋に住めと言われたけれど、優志にはこの部屋で十分だった、そして家賃も駅から近い割には安かった。
部屋の間取りは1DK、狭いとは思うが広い部屋へ引っ越したいとは思わない。ただ、収納スペースがあまりないのが欠点か。
鍵を開け中に入る。玄関を開けると直ぐにキッチン、壁際のドア2つは風呂とトイレ、そして突き当りのドアが優志のプライベートルームだ。
「ホント、狭いし、きれいではないかもだけど……どうぞ……」
来客用にスリッパを用意しとけばよかったかな、と今更な事を考えながら部屋の中へ入る。樹は狭いキッチンを物珍しそうに見ながら優志の後に付いて来た。
キッチンから続くドアを開け中に入る。8畳程のフローリングの部屋の壁際にはベッド、その反対側に倒したカラーボックスを置きその上にテレビがあり、その隣には本棚がある。勿論守川樹の著書もこの中だ。
ドア横にクローゼットがあり、その手前からベッドの隙間にハンガーラックがあり服が適当に掛けられていた。テレビの前辺りに小さな丸いテーブルが置いてあり、その上にはノートパソコンが置いてある。
「えーと……適当に座ってて、今お茶入れてくる」
「あぁ……」
ソファーセットなどなく、クッションも一つ丸テーブルの下に置かれているだけなので、樹はベッドに腰掛け優志を待った。
ここが優志の生活空間かと思いながら、くるりと狭い部屋を見渡した。
掃除が行き届いているとは言い難いが、自分が初めて一人暮らしを始めた時の事を思い出し、この部屋よりも汚かったなと思い出し懐かしむ。
フローリングの床は机の周り位の大きさのオフホワイトのラグが敷いてある。
床に物が落ちたりはしていないが、ベッドの上にはパジャマ代わりなのか半袖のTシャツとハーフパンツが投げ出されていたり、雑誌などは適当に部屋の隅に積んであったりしてある。
「お待たせ……」
「ありがとう」
先程コンビニで買ったお茶がグラスに注がれ出てきた。喉が渇いていたのでそれを有難く飲み、もう一度部屋の中を見回す。
「……そんなにきょろきょろしないでよ、片付いてないって言いたいんでしょ……?」
「男の一人暮らしなんてこんなもんだろ」
「……うーん……そうなのかなぁ……あ、樹さん、着替える?オレのでよければなんだけど……」
「そうだな、何か貸してくれるか?」
柔らかそうな生地の白いシャツとデニムというラフな格好だが、寝るにはもっと楽な服装の方がいいだろう。優志は頷くと、クローゼットの中からスウェットの上下を取り出した。
「……上は半袖の方がいいかな?」
黒の半袖ティーシャツを出せば、そちらがいいと言われる。部屋の中は昼間の気温が残っているかのように、少し蒸していたからかも知れない。
「えっと、お風呂入る?あと、換気しよっか、気づかなくてごめんね」
暑いよね、と言いながらベランダのガラス戸を開け網戸にする、もしかしてエアコンの方がいいのかなと思い至りベッドに座る樹を振り返る。
「エアコンつけようか?」
「平気だよ、そんなに暑くないよ」
「……そっか、お風呂、どうする?シャワーでもいい?」
「あぁ、いいよ、先入ってくる?」
「……うん……あ、いいよ、樹さん眠いでしょ?先、どうぞ、今タオル出すね」
「悪いな、じゃあ先使わせて貰うよ」
ベッドから立ち上がった樹にタオルを渡し、部屋に一人になると優志は今更ながら部屋の中の整理整頓を始めた。
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