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第6話

一人で寝るには大きめのベッドではあるが、男二人で寝るには少々狭い。樹のベッドはもう少し余裕を持って寝ていたと思うと、少し申し訳なくなる。  だけど、クローゼットに仕舞ってある客用布団を出す気にはなれなかった。いつもよりも密着して寝られる機会を自分から無くそうとは思えないからだ。 「……なぁ……」 「ん?」 「聞いてもいいか?」 「何を……?」  前髪をかき上げられ、そのまま子供にするように頭を撫でられた。ゆっくりと行き来する掌が気持ちよく、優志は目を細めその感触を楽しんだ。 「……先輩」 「……え……?」  手を止めた樹を見ると、なんだか拗ねたような表情だ。気になっていて、だけど聞いてもいいのかと思っているようだ。  まさか聞かれるとは思ってもみなかった事なので、ぽかんとしていると樹は「話したくないならいい」と言ってきた。 ちっとも、いい、とは思っていないような顔で。 「……えっと……高校の先輩で……同じ事務所の」 「…おい、それってたまにお前の話に出てくる先輩と同じか?」 「うん、そうだけど……」 「……」 唖然とした顔の樹に優志が慌てた声を出す。何故そんな顔をされるのかが心底分からない。 「え?なに??」 「切れたんだよな、そいつとは」 「……切れたって……うんと、高校卒業してからはしてない……ていうか、したのもほんの数回……だけど……?」 「でも、会ってると……」 「……樹さんだって元奥さんと会うでしょ?」 「……」  沈黙が落ちる。反撃されるとは思っていなかったのだろう。  気まずい沈黙を破ったのは樹だった。優志は何を言えばいいのか分からず黙っていた。 「付き合ってはいなかったのか……?」 「うん……」  もう質問されないと思ったが、そうではないようだ。全て聞いてしまおうと覚悟を決めたのか、開き直ったのかどちらかだろう。 「……オレはね、知っていたんだ……同じ学校に雑誌でモデルをしている人がいて、それが先輩だって。でも、先輩は知らなくて、読モの仕事している時にそんな話になって、同じ学校だって事もあって……ちょっと仲良くなって……」  言ってもいいのか、迷うような視線を樹に送った後、唇を一舐めして優志は続けた。 優志も全てを聞いて貰おうと決めたのだ。覚悟を決めたのと、開き直りと半々の気持ちで。 「……で、先輩から……その、ゲイ、だろって……言われて……それで、その……えっち、する関係になって……」 「……どうしてそうなったんだ?」 「うう、それは……なんか、流れで?」 「……流れでセフレになるのか?」 自分達の以前の関係を棚に上げて、樹が聞いてくる。 「セフレ、とかじゃないと思う……」 「じゃあ、何なんだ?」 「……分かんないけど、セフレ、じゃない……」 「……お前、その先輩の事、好きだったんだろ……」 「……それは……」 「……やっぱり、いい、それは言わなくて……ごめん、あー……ただ、お前の事なら何でも知っておきたいとか思ったんだよ……今その先輩となんともないならいい……あっ、疑ったりはしてないからな、優志が二股出来るような人間じゃないのは分かってるし」 「うん……」  腕が伸び抱き込まれる。それは誰にも渡さないと言下に言われているみたいで、くすぐったい気持ちになる。 樹は意外と焼きもち焼きだという事は恋人になってから知った。  そんな所はちょっと可愛いと思う。心配しなくても樹以外を好きになるなんて事はないのに。 「……樹さんだけ……」 「……あぁ……ごめん、みっともないな……」 「……そうかな……?その、オレも樹さんの事は何でも知っておきたいと思う、だから……元カノとか、聞いてもいいの?」 「……お前が聞きたいならな」  ちょっと考え、優志は首を振った。楽しい想像にはならないからだ。 「………うう、でもあんまり聞きたくないかも……樹さんが……今、オレの事すきって言ってくれれば……オレはそれでいい……って、苦しいよぉ!!」  ぎゅうぎゅうと力強く抱きしめられる。抱きしめるというか、締め上げられているのではないかという強さに思わずギブアップと腕を叩いた。 「……悪い……」 「……落とされるかと思った……」  まるでプロレス技を掛けられたみたいな言い草に樹は苦笑して、優志から腕を離す。 そのほろ苦い笑みを見て、同じ気持ちなのかなと思う。  樹にも、同じような不安がどこかにあるのだろうかと。だから焼きもちを焼いてくれるのかと。

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