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第3話
「それでな、お前のスカート姿可愛かったし、また見たいと思ってな、これ」
「は?」
ソファーの側に置いてあった紙袋を持ち上げ、優志に渡す。この流れで出てくる物に不安を隠しきれない。
「……」
渋々手を出して受け取る。視線を落とし紙袋の中を見れば、黒い布の塊。
袋を膝の上に置き、中身を取り上げて広げながら優志は重いため息を吐き出した。
「……あの、これは……まさか……」
「絶対似合うと思うんだ、メイド服」
「……このド変態……!!」
黒い布はワンピースだろう、その他に白いエプロン、底の方には靴下、あと何か白い布。
「似合うと思うんだ、着替えてくれよ」
「……」
「……写真に撮ったりはしないから」
「あ、当たり前だよ!!!」
「絶対似合うから」
「似合わないよ!!!!」
「イヤか?」
最初はニヤニヤしていたというのに、急に真顔になるので怯んでしまう。
「い、嫌だってば!」
「どうしてもか?」
「どうしてもだよ!!」
「どうしてもか?」
「……どうしてもだよ……」
何故、世界の終わりみたいな顔をするのだ。そんな悲しい顔をされてしまうと、自分は悪くないのに、樹に対してとても申し訳ない事をしているような気持ちになる。
全くもって悪い事などしていないのに。
「……ダメか?」
「……樹さんはメイドが欲しいの?」
「別にお前にご奉仕するにゃん、とか言って欲しい訳じゃないから」
「あ、当たり前だよ!言わないし!!」
なんだそのにゃん、て。メイド喫茶というより、風俗店にいそうだ(イメージ)
「着るだけでいいから」
「き、着るだけ……」
「なっ……?」
「着る、だけだからね」
「あぁ、嬉しいなぁ」
「……」
着るだけ……着るだけ……と、うわ言のように繰り返し立ち上がる。
紙袋の中身は服だから重さなど大してないというのに、鉛を入れたように重く感じる。
「待ってるからな」
嬉しそうに言われ、頷くしか出来なかった。
仕方なく寝室へ移動して、優志は着ている物を脱ぎ始めた。
「……はぁ」
胸の高さに掲げた黒地のワンピースはクラシカルなタイプのメイド服だった。もっとメイド喫茶の店員が着ているような、ミニスカートの可愛い系を想像していたので意外だ。
襟と長袖の袖口は白く、それ以外は黒。スカートの裾からは申し訳程度にレースが覗いている。古い英国映画に出てきそうなメイド服だ。
後にファスナーが付いているので、腰まで下ろす。
「……これ、手が届くのかな?」
後ろ手にファスナーを上げられるのか、不安になりながらワンピースを着る。
何とか腕を伸ばし、ファスナーを上まで上げる事に成功した。長身の優志が着たからだろう、スカートの丈は膝頭程だ。肩の辺りがきついが、ウエストは余裕がある。
これで給仕をしても差し支えない位には動けそうであった。しないけど。
あと袋の中には白いエプロンと黒の靴下、白色の布がある。エプロンは最後でいいか。
靴下を掃いて、その布を取り出し優志は固まった。
「……は?」
てっきりブラウス用のリボンだと思っていた。
まさかここまで用意されるとは思わないではないか。
だって……。
これは……流石に……。
「……いやいやいや……」
両手に収まるその白い布は、とても触り心地のよい生地だった。ぴらりと広げて、げんなりとした気分で落ち込む。
「……樹さん……これは……」
まさか、女性物と思われるショーツが一緒に入っていると思わないだろう……。
「何、考えてるんだよ……」
怒るとも呆れるともつかない、悲しいような気持ちも芽生える。でもそれは自分自身に対してもだ。
「……」
樹はちゃんと分かっているのだ。
優志がどんな要求だって答える事を。
「……ううう、樹さんのバカ……」
悪態を付きながらも、自ら下着を脱ぎ捨すてた。
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