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第4話

コンコン。 エプロンの紐を後ろ手に縛っていると、ノックに続いて寝室のドアが開いた。 「おー……」 「……」 せめて返事をしてから開けて欲しかった……。 むすっとした顔を向ければ、機嫌良さげな笑みで樹が近付いてくる。 「可愛いじゃないか」 「……」 その眼鏡は伊達なのだろうか。鏡はないので自分の姿は見られないが、滑稽以外の何者でもないだろう。 樹は優志には触れず、ベッドに腰を下ろした。 「優志」 優しい声が優志を呼ぶ。渋々と樹の正面に立てば、両手を広げられた。 飛び込んでこいとでも言うのか、だが、優志としてはそんな気分ではない。 苦笑で見上げてきた樹は、広げた手を優志の腰へ置き、遊ぶようにエプロンをめくり上げた。 「……かわいくないし……」 「可愛いメイドさんだよ」 「……」 「……まぁこれはオレが着てもなぁ……お前だってオレが着たところ見たいとはおも」 「着てくれるなら見たいよ!」 被せ気味に言うと、樹の眉間に皺が寄る。はなから着るつもりはないのだろう。 「あー……じゃあ、執事の格好ならいいか……」 「樹さんが?」 「そうだ」 「……着て、くれるの……?」 「あぁ、今度な」 「……それは……見たい……」 「あぁ……」 樹の肩に片手を置き、空いた手はそのまま顔へ近付ける。何をされるか大体分かっているのだろう、樹は瞳を細め笑みを深めた。 「……樹さん……」 呼んで、眼鏡を外す。だが、直ぐにそれは樹に取り上げられた。 「わっ」 眼鏡に気を取られていたので、反応が遅れてしまった。 樹の手がいつの間にか優志の腰に伸び、力付くで引き寄せられた。眼鏡はどこへいったのやら。 「……着るだけじゃないじゃん……」 「……着るだけでよかったのか?」 「……」 口ごもった優志を愉しそうに見上げてくる。分かっていた癖にと言下に言われいるようで、じわじわと頬に熱が集まる。恥ずかしい。 ほら、と言うように腰に伸びていた樹の手は優志の背中を優しく撫でる。 「……樹さん……」 まだ拗ねてます、というような甘ったれた声になってしまったけれど、樹はそれを優しい笑みで受け止めてくれた。 「優志」  両手を伸ばし樹の体に抱きつけば、そのままベッドに引き上げられた。  体重を掛けないように乗り上げ、優志の顔に掛かった髪を丁寧に払う。樹の指先が触れるだけで、鼓動が速まるのが分かった。 服装はこの際置いておいて、樹と触れ合う事自体久しぶりなのだ。心も体も樹を求めていた。この特殊な状況だから、というより久しぶりだからだ。 「樹さん……」  はやく。ねだるような甘ったるい声。 笑みを更に深めた樹の顔は、直ぐに暗い視界へと変わった。重なる唇、そういえばこの部屋へ来てからキスをするのはこれが初だ。 隙間から舌を差し入れると、待ち構えていたように樹の舌先に絡めとられる。 「……ふぅ、ん……」 キスの合間に漏れる息に色が着いていたら、きっとピンクよりもオレンジに近い赤だろう。炎が爆ぜるイメージ、だって唇だけでなく体のどこかしこも熱い。 「……はぁ……」 こんなに近くで見るのも久しぶりで、樹もそう思っているからなのか、ただ上からじっと見つめられた。 頬に触れてきた樹の手の平が少し冷たく感じる程に、そこは熱くて、でもその手の冷たさが気持ち良く、口元が不意に緩む。 緩い笑みを型どった唇に、それから顎にキスが落ちる。更に降りていき、首筋を一舐めされ、くすぐったさと久々の舌の感触に体が震えた。 「……ぁ……」 そのまま脱がしてくれるかと期待したが、そうではないようだ。 樹の手は背中のファスナーに回らず、胸元に伸びてきた。 ワンピースの上にはエプロンを付けたままだ。せめてエプロンは外した方がいいかと思い、結んである腰紐に手を伸ばせば、牽制するように腕を押さえられる。 「優志……」 「……」 「まだメイド服堪能してない」 「……堪能って……んっ」 着たままでも分かるのだろう、エプロンの胸当てとワンピースの隙間に差し込まれた手は、違わず優志の乳首を探り当てた。 「……いつ、きさん……」 捏ねるような動き、乳首を摘まもうというのか布地を指が挟む。布越しの愛撫は物足りないけれど、それでも久々に感じる樹の指遣いに優志の息は簡単に上がった。 「んん、樹さん……」 じわじわと触られているところから、小波のように快感が広がっていく。でも、こんなもどかしい愛撫ではなく、もっと直接的な刺激が欲しい。 「……樹さん……」 もう少し待ってくれ、とでも言いたげなキスをくれるだけで、樹の手は布地の上から離れようとしない。 それでも、高められた熱は下半身に集中していく。 「……はぁ……樹さん……」 もじもじと長い足が動く。スカートの中央は緩やかにエプロンを持ち上げている。 「……ん!」  樹の片手がスカートの上から優志の膨らみを一撫でする。軽くタッチして、形をなぞるように指先が遊ぶ。 「……いつ……も、っと……」  さわさわと指が往復するだけだ。胸元だって同じだ、ただ布の上から触るだけ。焦らされているのは分かっている、反応を見て愉しんでいるのだって。でも、もうそろそろ欲しいのだ。 「我慢出来ない?」  雄の顔で聞いてくる。優志はコクコクと躊躇いもせず頷く。羞恥心と戦った所で、勝てる訳ない、勝てないのは樹にだから。 「やっぱり、可愛いメイドさんだよ」

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