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第7話
「少し休むか……?」
腹に付いた精液をティッシュで拭いていると、ゴムの始末を終えた樹が聞いて来た。
「……へいき……樹さんは……」
「……まだ足りないよ」
「ん……」
抱き付くように腕を伸ばし、キスをせがむ。樹の手が腰に伸び引き寄せれた。
「……ふぅ……ん……」
鼻から抜ける甘ったるい声ごと、キスに飲まれる。
「優志」
シーツに背中を押し付けられると直ぐに足を持ち上げられた。
「樹さん……」
「ん?」
「あの……さ、えっと……」
「こっちからじゃない方がいい?」
「……うん」
足を下ろされたので、優志は樹に背を向け腰を高く上げた。
そろりと後を向くと、にやりと笑われた。
「いつきさん……」
恥ずかしいのと、何か企みを抱えてるような笑みが不吉で仕方ない。でも、だからといって行為を止めようとは思えなかった。
「こっちがいいのな」
「……ん」
こくりと頷いて顔を正面に戻す。
尻を一撫でされ、濡れた指が先程まで樹を咥えていた孔の表面をなぞった。中へは入らず、ただ円を描くように指が動く。
「……樹さん……」
何してるの?という意味を込めて名前を呼ぶが返事はない。
返事の代わりに、指ではない温かいものが尻に触れ、漸く挿入かと思っているとまたそれは表面に触れるだけ。
孔の周りをゆっくりとなぞったり、押し付けたり。
そのまま入れてくれればいいのに。
焦らして意地悪されるのは慣れている。でも、今日は甘やかしてほしいのに。
そんな事は言える筈もなく、優志は不満そうな顔を樹に向けた。
案の定、樹は意地悪い笑顔で優志を見ている。
「……樹さん」
「さっきみたいに、見せてくれよ」
「……え?」
「優志のかわいいとこ、さっき開いて見せてくれたじゃん、またしてくれ」
「…………は?」
「ここ」
「……んっ」
ここ、と言いながら人差し指の第一間接が差し入れられ、直ぐに抜けた。
「よく見えるように……自分で」
「……」
「優志」
「い、いじわるだ……!!」
正面を向き直し、シーツに顔を埋め叫ぶが樹からは何の返答もない。うううと唸って、そろりと顔を後方に向ける。
「優志」
ニヤニヤと笑っている樹。少し位しおらしい態度でも見せてくれればいいのに。いや、よくないけど。
さっきだって恥ずかしかったけど、でも今とは違う。自分からするのと、強要されるのは。
最初のももしかして焦らしていただけなのでは?!優しさからじゃなかったのか?!なんて思ってしまう。
「……い、樹さんはこのまましなくてもいいの?!」
「よくないよ」
「じゃ、じゃあ……」
「優志は我慢出来るのか?」
「……」
樹は我慢出来るというのか、出来ないだろうと下半身に視線を飛ばすが、樹は余裕を崩さない。
「……も、ずるい……」
シーツに顔を埋めてから、仕方ないと長い息を吐き出し上体を起こす。
どういう姿勢を取ればいいのかと考えながら体をまた倒す。恥ずかしがったら負けだ。勝負をしている訳でもないのに、そんな気持ちになる。
腰を高く上げ、左右から両手で自分の尻たぶを広げ後孔が見えるように開く。
「いつきさん……早く……もう、意地悪……しないでよ……」
涙の一つも溢せばいいのか。恥ずかしすぎて、逆に冷静になってしまう。演技で涙を流す事は出来るけれど、今それをしたくはなかった。
「……樹さんのばか!!!」
自棄になり大声で叫ぶ。
「……悪かったって……ごめんごめん……」
もういいというのか、樹の手が優志の手に触れ尻から外す。
「……優志……」
覆い被さるように背中に樹が乗り上げる。耳に顔を近付け、猫なで声を出されて機嫌なんて直したくないのに。
「……」
首を傾けて樹を見れば、反省したのか情けなく眉を下げごめんなとまた謝ってくる。
「……怒ってないけど……」
「うん」
ちゅっ、と頬にキスが落ち、それから耳をなぞるように舌が這い、耳の裏から後ろ髪を掻き分けて首に。唇が触れるだけ、痕を残さないようにいつだって軽く。
物足りないけれど、この体は優志にとっては商売道具と同じだ。見える所は勿論だが、見えない所にも最近は痕を付けようとしない。
「優志……」
肩甲骨に添うように優しく手の平が触れる。さわさわと、そして舌がその跡を辿るように背骨に沿って腰まで舐められる。
「……んん……はぁ……」
腰に手を置かれ、漸く尻に熱いものが触れた。
「……ふぅ……う、ん……」
二度目の挿入、ゆっくりと入ってきた樹を熱い粘膜が包み込む。欲しかった熱塊を受け入れながら、優志は満足そうな吐息を吐き出した。
「……はぁ……あ、樹さん……」
腰を掴まれると、奥まで入っていたものをずるりと引き抜きまた一気に、最奥へと突き立てられる。
「んんっ!」
抜けるギリギリまで引き、奥へ擦り上げながら樹の手が優志の胸元へ伸びる。
ピストンされながら、乳首を摘まむように引っ張られると体中に愉悦の波が襲う。
「あ、あっ……はぁ……いつ……んん……」
「……気持ちいい……?」
「う、ん……ぁ……」
気持ちいい、と上擦った声で答える。言葉にならないうわ言のような嬌声を上げ、もっと深く樹を感じてくて無意識に腰が揺れる。
「……優志」
「樹さん、はぁ……も、オレ……」
腰が揺れる度に先端からはぽたぽたと滴が落ちている、張りつめた優志のぺニスはもう限界を迎えそうだった。
「いつき、さん……」
許可を貰いたい訳ではないが、返事が欲しい。
「いいよ、いって」
「ん……」
樹の律動に合わせ、自らを握り上下に扱く。手の動きを早め、快楽を貪る。
「あ、ん……いつきさん……っんん!」
はぁ……と深く息を吐き出し、両手で自身を掴みぺたりとシーツに額を擦り付ける。
ティッシュペーパーを箱から引き抜く音が近くでする。目線を上げればまだ繋がったままの樹は優志の精液を拭ってくれた。
「樹さん、まだ……」
「……このまましてもいいか?」
自分だけ達っておいてこのままはないだろう。こくりと頷けば、こっちからな、と言われて体をひっくり返された。
「……わっ」
両手を伸ばせば、同じように樹も抱きしめ返してくれる。体の奥に樹を感じながら、愛しい人の名前を読んだ。
「……いつきさん……」
だいすき。言葉にはならなかったけれど、想いを乗せて。
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