45 / 50

短編12 第1話

「これ樹さんにあげるね……サンプルで貰ったんだけど……アイマスク……お仕事疲れた時とかにするかなって思って……」 「いいのか?ありがとう」  次の舞台のグッズをサンプルとして貰った為、今日はそれを持ち樹の部屋へやって来た。 「舞台、来月だったよな」 「うん、今はまだ稽古中だよ……見に来てくれる……?」 「あぁ、そのつもりだ、チケットも取ってある」 「……ありがとう……」  優志の顔が嬉しそうに綻ぶ。  次の舞台は劇団の客演として出演だ。本番まではあと2週間ちょっと。今日の稽古、優志は早い時間で終わり明日は休みだ。 稽古中、いつもだったら樹と会う事は少ないのだが今回の稽古場がこの部屋から近い為、夕飯を一緒に食べたりと会う事も多かった。 「告知で見たけど、次の役は優志、眼鏡キャラなんだな」 「あ、うん、そう……眼鏡掛ける役ってなかったから何か新鮮……」 「写真見たよ、似合ってた」 「そう……?」 「あぁ」  眼鏡姿の樹に言われるのは何だか照れる。だけど素直に喜ぶ事にしよう。 「アイマスクってグッズか?」 「うん、オレのじゃないんだ……主要キャラっていうのかな、四人いるんだけど、その四人の関連グッズが出てね、オレはブックカバー、他のキャラでいつも眠そうにしてて寝るの大好きっていうキャラのがね、アイマスク」 「へぇ、そうなのか」 「うん、ブックカバー持ってなかったし、樹さんの本に使うね」 「使えるグッズはいいな」  手元のアイマスクに視線を落とす樹の言葉には実感がこもっていた。過去ダーツのグッズで何かあったのかも知れないが、ここはそっとしておこう。 「あぁ、これ遮光性高いな」  アイマスクをビニール袋から出し、樹が装着する。黒色のアイマスクは、右目の下に当たる部分に舞台のタイトルロゴマークが白字で入っているシンプルなデザインだ。  専用の黒い巾着も一緒に付いているので、旅行などに持って行く時に役立ちそうだ。 「うん、いいみたいだよ、他のキャストが早速使ったって言ってたけど」 「へぇ……じゃあ、今日から使わせて貰おうかな」 「うん」 「ところで、今日は泊まっていくのか?」 「……え、う、うん……いい……の、かな……?」  突然の問いかけにしどろもどろになりながら答え、更に質問をする。  明日は休みとだけ言ってあったが、泊まるとは言っていなかったのだ。勝手に泊まる気になっていたが、もしかして樹は予定があるのだろうか。少し心配になる。  そんな優志を安心させるように笑顔で頷くと、樹は快諾した。 「勿論」  その笑顔にどんな意味があるのか、この時の優志は分かっていなかった。

ともだちにシェアしよう!