46 / 50

第2話

 樹と付き合い出して1年が経つ。今の所順調な交際と言っていいだろうと、優志は思っていた。  カレンダーと関係のない仕事をしているので、会うのは週末、などと決まった曜日に会う事は出来なかった。 お互いの仕事の休みの時に会うのがほとんど。優志はここ1年程舞台を中心に活動している。一つの作品が終わると直ぐに次、という訳ではなかったが今の所この先も舞台の出演予定はある。  舞台がない時でも、オーディションを受けたり、取材、配信番組への出演等仕事はある。休みがない程忙しいという訳ではないが、まとまった休みはあまりなかった。  その点樹は締め切り前でない限り、時間に余裕があった。なので、優志の誘いを断る事はほとんどないし、いつ来てくれてもどれだけ滞在しても構わないと言ってくれる。  二人の仲は相変わらずで、優志は未だに遠慮してしまう事も多い。それでも付き合い当初と比べれば、随分と恋人という距離に慣れたと思う。  今では自分から泊まりたいと、言う事も出来るようになった(樹が切り出す方がまだまだ多いが)  この先もこのままでいたい。このままでいられるといいな。  そんな事を考えながら、優志は寝室のベッドにごろりと横になりながら、樹が風呂から出るのを待っていた。  自分は不満なんてないけど、樹はあるだろうか。もし直して欲しいと思っている事などあれば言って欲しい。まだ飽きられてはいないと思うけど……少しでも長く一緒にいられるように、何か足りない所があれば言って欲しい。  樹はいつも優しい。たまに意地悪な事をされるけど、それを差し引いても優しいし、いっぱい甘やかしてくれるし、愛してくれる。  寝返りを打ち天井を見上げて長く息を吐き出す。 「……ふぅ……」  梅雨が明けて本格的な夏が始まった7月下旬ではあるが、この部屋はそんな暑さとは無縁な程涼しく快適に保たれていた。 白の半袖ティーシャツに下は紺色のボクサーブリーフ。部屋着にはハーフパンツを履いているのだが、この後の行為を考えれば履く必要はないと思い脱いでいた。  泊まるのは久しぶりだ。稽古が始まってからこの部屋に来た事はあったけど、泊まる事はなかった。明日は休みと伝えてあるので、樹だってただ寝るだけだとは思っていないだろう。  久しぶりなのでさっきからソワソワと落ち着かない。一緒に風呂に入るか?なんて聞かれたけど、恥ずかしくて断ってしまった。やっぱり一緒に入ればよかっただろうか。 「……でも、お風呂は……」  早く樹に抱いて欲しいとは思うが、やはりベッドでしたい。風呂場も悪くはないが、そういう気分ではないというか。  逸る気持ちを抑えようと深呼吸してみるがダメだ。 「あ」  ちょっと落ち着こうと思い、優志は樹から預かった物を枕元から取り上げる。  先程樹に渡したアイマスクだ。樹からベッドに持って行ってくれと頼まれたのだ。  落ち着くかは分からないが、試してみよう。巾着に入ったアイマスクを取り出し、装着する。  照明がついているにも関わらず、視界が暗闇に奪われた。 「ほんと、暗いや」  もっと薄明りでも見えると思っていたが、樹や他のキャストが言うように遮光性は抜群のようだ。  そのまま枕に頭を乗せ仰向けになる。何だか気持ちが落ち着いて来た。 「……はぁ……」  すっかりリラックスしてしまった優志は、知らぬ間に眠りの世界に落ちて行った。

ともだちにシェアしよう!