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第2話
樹と付き合い出して1年が経つ。今の所順調な交際と言っていいだろうと、優志は思っていた。
カレンダーと関係のない仕事をしているので、会うのは週末、などと決まった曜日に会う事は出来なかった。
お互いの仕事の休みの時に会うのがほとんど。優志はここ1年程舞台を中心に活動している。一つの作品が終わると直ぐに次、という訳ではなかったが今の所この先も舞台の出演予定はある。
舞台がない時でも、オーディションを受けたり、取材、配信番組への出演等仕事はある。休みがない程忙しいという訳ではないが、まとまった休みはあまりなかった。
その点樹は締め切り前でない限り、時間に余裕があった。なので、優志の誘いを断る事はほとんどないし、いつ来てくれてもどれだけ滞在しても構わないと言ってくれる。
二人の仲は相変わらずで、優志は未だに遠慮してしまう事も多い。それでも付き合い当初と比べれば、随分と恋人という距離に慣れたと思う。
今では自分から泊まりたいと、言う事も出来るようになった(樹が切り出す方がまだまだ多いが)
この先もこのままでいたい。このままでいられるといいな。
そんな事を考えながら、優志は寝室のベッドにごろりと横になりながら、樹が風呂から出るのを待っていた。
自分は不満なんてないけど、樹はあるだろうか。もし直して欲しいと思っている事などあれば言って欲しい。まだ飽きられてはいないと思うけど……少しでも長く一緒にいられるように、何か足りない所があれば言って欲しい。
樹はいつも優しい。たまに意地悪な事をされるけど、それを差し引いても優しいし、いっぱい甘やかしてくれるし、愛してくれる。
寝返りを打ち天井を見上げて長く息を吐き出す。
「……ふぅ……」
梅雨が明けて本格的な夏が始まった7月下旬ではあるが、この部屋はそんな暑さとは無縁な程涼しく快適に保たれていた。
白の半袖ティーシャツに下は紺色のボクサーブリーフ。部屋着にはハーフパンツを履いているのだが、この後の行為を考えれば履く必要はないと思い脱いでいた。
泊まるのは久しぶりだ。稽古が始まってからこの部屋に来た事はあったけど、泊まる事はなかった。明日は休みと伝えてあるので、樹だってただ寝るだけだとは思っていないだろう。
久しぶりなのでさっきからソワソワと落ち着かない。一緒に風呂に入るか?なんて聞かれたけど、恥ずかしくて断ってしまった。やっぱり一緒に入ればよかっただろうか。
「……でも、お風呂は……」
早く樹に抱いて欲しいとは思うが、やはりベッドでしたい。風呂場も悪くはないが、そういう気分ではないというか。
逸る気持ちを抑えようと深呼吸してみるがダメだ。
「あ」
ちょっと落ち着こうと思い、優志は樹から預かった物を枕元から取り上げる。
先程樹に渡したアイマスクだ。樹からベッドに持って行ってくれと頼まれたのだ。
落ち着くかは分からないが、試してみよう。巾着に入ったアイマスクを取り出し、装着する。
照明がついているにも関わらず、視界が暗闇に奪われた。
「ほんと、暗いや」
もっと薄明りでも見えると思っていたが、樹や他のキャストが言うように遮光性は抜群のようだ。
そのまま枕に頭を乗せ仰向けになる。何だか気持ちが落ち着いて来た。
「……はぁ……」
すっかりリラックスしてしまった優志は、知らぬ間に眠りの世界に落ちて行った。
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