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そよそよと……20

◆◆◆◆ 「ゆーの?どうした?元気ないな?調子悪い?」 朝、起きて直ぐにアキラさんに心配された。 「あ、元気です!元気!」 俺は笑って答える。 「本当に?ユノは隠す癖があるから」 アキラさんは俺に近付き、額に手を当てた。 「熱い」 「えっ?」 慌ててアキラさんは体温計を探しに。 熱い?熱いかな?自分では分からない。 計って貰うと意外と熱があって自分でも驚いた。 「俺が看病してやりたいけど、朝から予約入ってて……まー呼ぶから」 アキラさんがスマホを手にするものだから慌てる俺。 「えっ!大丈夫です!寝てればいいし!!」 雅美さん呼ぶとか……ああ、ただでさえ迷惑沢山かけてるのに。俺ってば…… 「だめ!」 俺が嫌がってもアキラさんは雅美さんに連絡してしまった。 雅美さんも仕事あるのに…… 俺って……なんでこうかな?昨日もアキラさんに気を使わせてしまった。 色んな思いが一気に来て、俺の心はションボリと萎む。 そんな俺の身体がふわりと浮いた。 「ユノ、お前寝ていろ顔色が悪い」 アキラさんが俺を抱き上げたのだ。 心配そうなアキラさんの顔。 ボスンとベッドに降ろされて、アキラさんは薬箱やら色々と用意し始める。 「あ、アキラさん仕事遅刻しちゃうよ!俺は自分で出来るから」 ベッドから降りようとするのを止められて「ユノ……お前はもっと人に甘えていいんだからな……具合悪い時とか特に……気を使い過ぎなんだよ」そう言われて頭を撫でられた。 気を使い過ぎなのはアキラさんだと俺は思う。 いつも、俺の心配ばかり……昨日も、…準備というのを知らなかった俺も悪いけど。 「ユノは横になって」 アキラさんに無理やり寝かせられる。 「本当に大丈夫なのに……俺、これくらいなら平気。小さい時から熱には強かったもん」 アキラさんを見上げて言う。本当にそうだった。俺はずっと、施設に居たから施設では黙って寝ていればいつの間にか熱は下がっていた。 施設には子供が沢山いて、世話をしてくれる大人は5人くらいで大人1人が数人の子供をいっぺんに見なくてはいけなくて、自分だけ独占するなんて申し訳なかった。 「ユノ君は病気の時も良い子で助かるわ」って施設の人が話していたのを聞いた事があった。 元々、大人しい性格だったから大人の手を焼く事をした事が無かった。 「バカ……熱に強い子供なんているわけないだろ?それは強いとかじゃなくて我慢してたんだ……ユノは特に周りに気を使う子だから心配させないように我慢してしまうんだよ」 アキラさんは俺の頭を撫でる。 そんな事……ない。 我慢とか……我慢とかしてないよ俺? ふと、目を閉じた。 「ユノ、いい子に出来るな?」 若い頃の父親の声を思い出した。 小さかった俺は行って欲しくなかったけど、「うん」って頷くしか出来なかった。 彼が行ってしまった後、部屋に1人。 テレビがついてても寂しかった。 寂しくてポロポロ出てくる涙を必死に拭いた。 いい子にしなくちゃ……そう思って。 ◆◆◆◆ 「ユノ」 名前を呼ばれ目を開けた。 「薬」 目の前には雅美さんの顔。 なんで?って思ったけれど、アキラさんが呼んだんだって思い出した。 「雅美さん……」 俺は起き上がり雅美さんに両手を伸ばす。 「ユノ?」 どーしたの?って聞いてくる雅美さんにギュッって抱き着いてしまった。 なんでだろ?急に寂しくなった。 抱き着く俺を驚きもせずに抱き締めてくれる雅美さん。 「よしよし……熱辛いね……大丈夫だよ」 雅美さんは俺を抱きしめながら頭を撫でてくれた。 甘えたらダメなのに……。 「ユノ、身体熱い……病院行こう」 「いや……ここにいる……黙ってたら良くなるもん」 俺は雅美さんに抱き着いたままに答える。でも、確かに身体が熱い。 「窓……あけて……」 外はまだ寒いから、外の空気を入れれば少しは熱さが引くかも知れない。 「窓?……空気の入れ替えしたいのユノ?」 頷くと雅美さんは俺から離れて窓を少し開けてくれた。 そこから冬の空気が流れ込んでくる。 冷たい空気が俺には優しく感じた。 まるで春の風みたいにそよそよと吹いている。 空気を少し入れ替えて雅美さんさんは窓を閉めた。 「ユノ、何か欲しいものある?」 俺の頭を撫でる雅美さん。 「抱っこして」 昔、熱を出した夜に父親に抱っこをせがんだ事を思い出した。 父親は俺をギュッと抱きしめて添い寝してくれた。 仕事でクタクタなのに。 今、思えば若過ぎる父親だった。でも、精一杯に愛してくれた。 いつも俺に「ごめんユノ、俺がもっと大人だったらな……」って言ってて、俺からしたら大人で父親なのにって不思議だった。 でも、今ならわかる。 俺よりもっと年下の成人さえしてない若い父親だったのだから。 彼は早く大人になろうとしていた。俺の為に……俺が居なかったら普通にまだ子供でいられたのに。 成長する度にその事を思い知らされた。 ごめんね、お父さん……って布団の中で声を殺して泣いた。 「ごめん……なさい」 「ユノ?何謝ってるの?」 「ごめん……おと……さ」 今、お父さんは幸せかな? 俺が居ないから……きっと、自由に出来ている。 幸せならいいな。 そう思いながら目を閉じた。

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