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7話

相手は俺を知っている。でも、俺は知らない…多分。 「川畑は俺を覚えてない?」 その問い掛けにコクンッと頷く。 「まじかーっ、高校ん時、同じクラスだったんだけどな」 相手は寂しそうな顔。 同じクラス? 覚えてないつーか、知らない。 「ちぇっ、話した事もあんだぞ?マジで覚えてない?俺、真北キイチ」 マキタキイチ、そう名乗られても全く覚えていない。 「ごめん」 もう、謝るしかないよね? 「いや、謝んな。で、川畑は手、どしたん?」 包帯巻かれた手を指さされた。 「ひび入ったから。…じゃあ、」 いくら元クラスメートとはいえ、知らない。 会話も盛り上がらないから、早々に会話を切り上げてみると、マキタキイチは、 「待て待て、何でそんな急ぐんだよ、せっかく会えたのに」 俺を引き止める。 「人、待たせるから」 「えっ?友達?」 会話を続けようとするマキタキイチをどうしたもんかと、困っていたら、 「ユノ」 雅美さんの声。 「あれ?友達?」 雅美さんとマキタキイチの声が見事にハモる。 「多分」 多分って言ってもクラスメートだから友達かどうかは分からない。 「多分?」 「多分ってひでえ!」 クエスチョンで聞いたのは雅美さん。 ひでえ!はマキタキイチ。 「俺のクラスメートなんだって」 「ユノ、何でそんな曖昧なん?」 雅美さんの質問に笑って誤魔化す。 「川畑の友達ですか?俺は真北って言います。覚えられてないけどクラスメートでした」 「ごめんね、うちのユノが…悪い子じゃないからね」 雅美さん…本当にお兄ちゃんみたいになってる。 「うちのユノ?」 キョトンとするマキタキイチ。 「あ、ユノの兄です。よろしく」 ペコリと頭下げる雅美さん。 「えっ?お兄さん?川畑、兄弟居たんだ」 知らなかった~なんて顔をしているマキタキイチに、 「じゃあ。」 俺は会話をバッサリ斬った。 「え~、川畑冷たい」 と言うマキタキイチの番号が呼ばれたらしく、俺に手を振って呼ばれた場所へ歩いて行った。 ******* 「思わず、兄って言っちゃった。言ってみたかったんだよ」 車に乗り込むと雅美さんはそう言った。 しかも、嬉しそう。 「別にいいんじゃないかなあ?もう会わないと思うし」 「ユノ、全然覚えてないの?」 「うん」 即答しちゃう俺。 全く、覚えがないのだから仕方ない。 雅美さんはまた俺のシートベルトを付けると、車を走らせた。 「じゃあ、本当にドライブしようか?」 「えっ?店は?」 「相変わらず暇なんだから爺様1人で大丈夫。…それに爺様がユノと遊んでやれって」 遊んでやれって…子供か! なんて、思っちゃったけど嬉しいのが先に来て、 「じゃあ海みたい」 と言った。 「了解」 雅美さんは笑顔で了承してくれて海までドライブ。 鞄にカメラ入れてて良かったなあってカメラを鞄から出す。 「相変わらず、カメラ持ち歩いてんだね」 「だって、風景って毎日違うから」 「そうだっけ?」 「そうだよ、空も毎日違うよ。歩いてる人や、日差しとか車とか花とか、鳥や猫居たりして…毎日違うんだよ」 「いいね」 「でしょ、それをいつも撮れるように」 「ユノは何時もキラキラしてるね」 「へ?」 いきなりな言葉に俺はキョトンとした。 「写真の事話す時とか、凄くキラキラしてて、若いってイイナーなんて思う」 キラキラ… キラキラとか、 めちゃくちゃ恥ずかしいんだけどーっ。 でも、嬉しい。 そして、キラキラと銀色に光る海に着いた。

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