35 / 133

さらさらと……

夜の海も好きだけど、昼間の海もやはり良い。 片手でカメラを持ち写真を撮る。 今のデジカメは機能が良いから手ブレを気にしないでいいから好きだ。 数枚撮って、雅美さんの方向を向くと真剣な顔で砂山を作っている。 何だか可愛くてシャッターを切った。 「雅美さん真剣」 側に行くと雅美さんはトンネル堀を開始している。 「懐かしくてさ、子供の頃よく海に来ちゃ山作ってたな」 「アキラさんと?」 俺はカメラを鞄に入れるとトンネル掘りを手伝う。 「だな、アキラとチャリで」 「何か可愛いッスね」 「夏休みはさほぼアキラと一緒だったなあ。」 「いいなあ~そういうの」 2人が遊ぶ姿を想像したら可愛くて笑えた。 俺にはそういう思い出はない。 1人遊びばかりだった。 「俺も雅美さんやアキラさんと同級生だったら良かったなあ」 そしたらきっと楽しい毎日が送れたかも。 穴掘りは意外と早く貫通して雅美さんの指先とぶつかった。 ぶつかったからお互いに笑ってしまった。 雅美さんの指先は進んで来て俺の手を掴んだ。 「雅美さん?」 掴まれてちょっとビックリした。 「次はアキラと来よう。夏になったら…色々遊べるね。花火とか」 雅美さんはニコッと微笑む。 「はい」 返事をすると手が離れた。 トンネル掘りが終わり、汚れた手をどうしようかと悩む。 片手は使えない。 「ユノ手、貸して」 雅美さんは俺の手についている砂をハンカチで落とす。 「ハンカチ汚れちゃうよ」 「汚す為にあるんだよ」 クスクス笑う雅美さん。 しばらく海を2人で見ながらたわいもない会話をして、 帰ろうか?と雅美さんが手を出してきたから、 自然に手を繋いでしまった。 雅美さんの手は柔らかくて温かい。 包まれるような繋ぎ方から気付くと指を絡ませて繋ぐ、密着した繋ぎ方になってしまっていた。 そのまま、車に戻ると、 「ユノの手、温かいね可愛い」 そう言って手を離した。 車に乗り込み、走り出した車内で雅美さんがまた俺の手を握ってきて、 また、自然に繋いでしまった。 ******* もう直ぐアキラさんが帰って来る時間まで雅美さんは居てくれた。 「じゃあ、明日から仕事出ておいでね」 玄関先で靴を履きながら雅美さんは微笑む。 「今日、ドライブ楽しかったです」 「うん。僕も…また行こう」 雅美さんは俺の頭を撫でた。 「ねえ、ユノ…寂しい時はちゃんと言葉にしなきゃダメだらね。僕やアキラやジイサンに遠慮は要らない」 ああ、やっぱ雅美さんには読まれていた。 きっと手を掴んだのは俺が寂しい顔をしていたからだろう。 ずっと手を繋いでくれていたのも同じ理由。 「うん」 笑って返事をする俺の頭を軽く叩く雅美さん。 「大丈夫。ユノは1人じゃないから」 「うん」 この言葉は随分に言われた言葉。 懐かしくて優しい。 「おやすみ」 雅美さんは手を振って帰って行った。 1人残されソファーに転がる。 目を閉じていたら眠ってしまったみたいで、 柔らかくて温かいものが唇に触れ、目を開けた。 「眠り姫だな」 クスクス笑うアキラさん。 「アキラさん…」 アキラさんを見上げて名前を呼ぶ。 「ただいまユノ、寝顔可愛すぎてチュウしちゃった」 頬を撫でられ、俺はアキラさんに手をのばした。 アキラさんは嬉しそうに笑い俺を抱き起こす。 「おかえりなさい」 抱きしめて貰って、おかえりなさいを言った。 「いい子にしてたか?」 「うん」 「病院も行ったか?」 「うん」 「そうか、偉いな」 アキラさんは抱きしめたまま頭を撫でてくれた。 「ご飯食べるか?」 「もうちょっとこのままがいい」 小さなワガママ。 アキラさんは、 「いいよ」 ともっとキツく抱きしめてくれた。 温かい…。 心臓の音、落ち着く。 「ソファーよりベッドに行こうか?」 アキラさんは俺の有無を聞かず、抱き上げた。

ともだちにシェアしよう!