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しんしんと…… 2話
ベッドに降ろされて、アキラさんを起こさないように雅美さんはおやすみの変わりに俺の頭を撫でて寝室を出て行った。
雅美さん、泊まってくれてるんだ。どこで寝てるんだろ?ソファー?
寒くないかな?
心配だけど、病人の俺に心配されたくないよね。……本当、俺って怪我したり病気したり。厄年だっけ?
ううん、俺の注意の足りなさなんだよな。甘えばっかりだ。
アキラさん、愛想つかさないかな?
顔を伏せて眠るアキラさんの頭を撫でる。
仕事から帰って直ぐに看病してくれてたのかな?
雅美さんもそうだよね。病院連れて行ってくれたり。
何度か撫でていたらアキラさんがピクッと反応して目を覚ましてしまった。やばい、起こしてしまったよ。
「ユノ」
アキラさんは起き上がる。
「目が覚めた?」
それはアキラさんだよ……って言いたい。
「喉渇いて」
「そうか、ちょっと待って」
アキラさんはベッドの近くに置いてあるペットボトルを掴む。
雅美さんが言った通り、飲み物は近くにあった。
アキラさんは俺にペットボトルを渡し、俺の身体を支える。
ちょっとした気遣いが嬉しい。
喉がそうとう渇いていたのか、俺は半分飲み切った。
「もういい?」
頷く俺。
「じゃあ、横になって」
俺を寝かすアキラさん。そのまま額を触る。
「冷えピタ使い物にならなくってるな」
冷えピタ?
俺はその時、初めて額に熱冷ましシートが貼られているのに気付く。どんだけだよ俺。
新しいシートはひんやりとして気持ちが良い。
「きもち……いい」
「熱高いから」
アキラさんの心配した顔が俺を見下ろしている。
「ユノ、大丈夫か?ごめん、俺が菌を持ち込んだのかも……お客さんがインフルエンザだったみたいでさ」
えっ?いやいや、違うと思う。
「俺は予防接種してたんだけど、ユノはしてなかったってウッカリしてた」
アキラさんは俺の頭をずっと撫でてくれて、それが気持ち良くて、また、目を閉じる。
◆◆◆◆
ピピピっ、
小さい電子音が聞こえた。
「まだ下がらない」
「起きたら薬飲ませるよ、ほら、アキラ、仕事」
「……うん、昼からお客さんの予約がない時間帯あるから様子見に戻る」
「わかった」
アキラさんと雅美さんの会話が聞こえてきた。
アキラさん、仕事?
じゃあ、もう朝なの?
昨夜、頭を撫でて貰ってから寝ちゃったんだ俺。
足音が玄関まで続く。
ああ、仕事行っちゃったのかアキラさん。しばらくすると足音がこっちへ戻ってきた。
額に手が充てられたから目を開けた。
「ユノ」
雅美さんが俺を見下ろしている。
「雅美さん……」
「食事出来る?お粥あるよ?薬飲まなきゃでしょ?」
薬……
俺が苦手な分野。でも、嫌だとか言ってられない。早く熱下げなきゃ。
起き上がろうとするけれど、身体がだるい。そして、なんか気持ち悪い。
ベタベタする。
なんで?首辺りとか触ると濡れてて、汗かと気付く。
「汗……気持ち悪い……」
「あ、そうだね、熱が高いから、着替えさせようと思ってたんだ、待ってて」
雅美さんが何処かへ行って、少し経って戻ってきた。
「ユノ、そのままね」
雅美さんはそう言うとシーツをどかして、俺の着ているシャツのボタンを外し始める。
何してるの?って聞きたいけれど、身体が怠すぎて言葉にするのもおっくうだ。
ボタンが全部外されると温かいモノが身体に触れる。
何だろ?
温かいモノは俺の身体を撫でていく。凄く気持ちいい。
「ユノ、ちょっとキツイけど身体起こすね」
雅美さんは俺の身体を起こして、シャツを全部脱がせた。
そして、背中にも温かいモノが。
身体が起されて気付いた。温かいモノはタオルだ。
雅美さんは俺のベタベタする汗を拭いてくれているんだ。そっか……だから気持ちいいんだ。
俺はウトウトしてきて、身体が前のめりになる。
「ユノ、寝るのは待ってパジャマ!」
「……ん、」
俺は雅美さんの方へ身体を持っていく。
すると、また、甘い香。
これ、雅美さんの香水かな?
アキラさんも似たような香りがする。大人の男性は香水つけるんだね。カッコイイ。
「いい……匂い」
「お粥、食べれる?」
えっ?お粥?この香、お粥なの?と顔を上げると雅美さんと顔が凄く近い。
こんなに近くで雅美さんの顔を見たのは初めてかもしれない。凄く綺麗な顔立ち。
アキラさんはワイルド。雅美さんは綺麗。
いいなあ、神様って不公平。
「雅美さん……綺麗……」
何かその綺麗な顔に触りたくて手を伸ばす。
「ユノの方が綺麗だよ。綺麗で可愛い」
雅美さんは俺の頬を触る。
大きな手。
雅美さんって意外と男らしいパーツ持ってる。
アキラさんの手のひらも大きいし。
「ユノ、パジャマ……全部脱がすから身体浮かせて」
雅美さんは俺の身体を少し持ち上げて、下も脱がせた。
あれ?俺って何も着てない?
何も着てないけど、寒くはなかった。
火照る身体で雅美さんにしがみつく。
「こら、ユノ、パジャマ着れないよ」
雅美さんは俺を引き離そうとするけど、何でかな?離れたくなかった。
「だっこお」
「ユノ……」
雅美さんの両手が背中に回ってきて、抱き締めてくれた。
そして、唇にやわらかいモノが触れて、口内に何か入ってきた。
俺はその入ってきたモノを受け入れてしまって……
それが雅美さんとのキスだと気付くのは随分後になる。
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