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しんしんと……5話

「ユノ、辛いなら膝枕」 後部座席に俺とアキラさん。雅美さんは運転している。 俺の身体を気遣って膝枕をしてくれた。 「まさか、マキタ君の同級生だとは思わなかった」 アキラさんは俺の頭を撫でながらに言う。 「うん……アキラさんも知り合いとは思わなかった」 「結構長く来てくれてるんだよ彼、で、たまに高校の頃の話してたんだよね彼……で、よく話に出る同級生がユノだったわけ。いつだったか、久しぶりに会ったって喜んでた」 「……なんで、俺の話?俺、覚えていないのに」 凄く不思議だ。 しかも、俺が会話思い出したって言ったら凄く嬉しそうに笑って……本当に嬉しそうだった。 「きっと、ユノと仲良くしたかったんだよ」 そう言ったのは雅美さん。 マキタキイチと初めて会った時もそう言ってたな。 「なんで、俺?そんな話した事ないのに」 「ユノは高校生の頃の話しないもんな……ユノは物静かで図書室にいつもいて、頭もいいし、スポーツもそれなりに出来たのに目立とうとはしない大人しい男子ってマキタ君が言ってたよ」 「なにそれ?」 笑いそうになった。 確かに図書室にはいたな。本読むの好きだし。 「いつも、写真集ばかり見てたって」 「あ、確かに」 「写真撮るの好きだもんな」 アキラさんが笑いながら俺の頭を撫でる。 「マキタ君、きっと、凄く仲良くしたかったんだね、図書室に居たとか知ってるから」 雅美さんの言葉にふと、高校の図書室を思い出した。 俺は昼休みや、放課後、する事なくて何となく図書室に居た。 写真集も沢山あったし、何より静かにしなければいけない場所だから、変に話掛けてくる生徒もいなかった。だから、居た気がする。 いつも、窓側に座って風景も一緒に見てたな。 ふと、マキタの姿を思い出した。 あ、そうだ!彼も良く図書室に居たんだ。 一生懸命、勉強してて、真面目だなって思った事があった。 ああ、それなら俺が図書室に居たって知ってるなアイツ。 何か笑いそうになるのを我慢する。 「ユノ?」 急に黙るからアキラさんが心配そうに俺の顔を覗き込む。 「喋らせ過ぎちゃったかな?」 俺の頭を撫でる手が優しくて温かい。 撫でられるの好きだ…… 凄く小さい頃を思い出せるから。 悲しくない思い出。 俺の頭を撫でてくれた優しい父親の手を思い出すから。 もう、顔させもボヤけてしまって思い出せないのに、こういう事はまだ覚えているから不思議だ。 限りある思い出も、いつか、薄れるのかな? それがいいのなら……薄れていってもいいかも。 きっと、お父さんは俺を忘れてしまってる。 ここで、待ってろ! あの日、言われた言葉は耳にまだ残っている。 いつか、迎えに来てくれるって思ってたけれど、大人になるにつれて、もう会えないって理解した。 あれが最後の別れ。 最後だって、分かってたら……もっと、違う事を伝えられただろうか? お父さん、僕のせいで辛くしてごめんなさい。 お父さん、幸せになってください。 施設の布団の中で思い出しては声を殺して泣いていた。 僕は大人を不幸にする。 僕に近付いたら、皆、辛くなる。 そう思ってた。 だから施設でも、学校でも必要以上の会話は避けていた。 仲良くなった後の別れが怖かったから。 また、置いていかれるのは嫌だから。 それに、他の人も必要以上に接して来なかった……。 きっと、それは俺がそこまで必要ではないと分かっているから。 だから、施設に来たじい様が「ユノ、高校卒業したらワシんとこ来い、お前、写真好いとーろが?」と言ってくれたのが嬉しくて福岡に行く決心がついた。 じい様はわざわざ、福岡からまたに施設に写真を撮りに来てくれてた。そこで、仲良くなった。 カメラの話や写真の話は聞いてて楽しかった。 たまに雅美さんも一緒に来て……凄く綺麗な男の人だなって子供心に思った。 雅美さんに頭を撫でられるの好きだった。凄く優しいから。 「ユノ、寝ちゃった?」 アキラさんの声が聞こえたけれど、俺はそのまま眠りについて、目が覚めるとベッドだった。 ◆◆◆◆ 「ユノはどうや?」 じい様の声。 「相変わらず」 そして、雅美さんの声。 「次は予防注射連れていかんとダメやな」 「嫌がるよ?注射嫌いだから」 クスクス笑う雅美さん。 うう、俺って色々と子供だな。 「そういうとこもあった方が良かろ……ユノは何でも我慢するろうが……本当、痩せ我慢にも程があるばい」 じい様のため息。 「ユノは……本当、心配やったとばい……初めて会った時、あの子は大人に気を使いすぎる子供やった。顔色を伺うというか、自分の関心を持たせないようにしとった」 「うん、僕も気付いてたよ」 「他に子供が沢山居たからなのか、大人には期待してないとか……頼ろうとはせんかったもんな……あげん小さい子供が……部屋の隅っこで声を殺して泣くとか……どれだけ辛い思いをこの子はしてきたんだろ?って考えたらいっそ引き取ろうかと婆さんに言った事もある」 「うん、ばあ様に聞いたよ」 「ユノが自分からワシんとこの子供になるって言うてくれるまで自然に待とうと思ってたら高校卒業まで行ってしもうとった」 「無理矢理連れて来るとユノが混乱するもんね」 えっ…… 何それ?って思った。 そうか、じい様が良く施設に来てくれてたのは俺の為? 本当に? じい様、カメラと写真の話しか…… って、よく良く思い出すと「ユノ、博多来んか?うどんが美味いばい?」と言われた事がたまにあった。 「えー、じいちゃん、俺、ラーメンが好き」 「なんや?博多といえばうどんぞ?ごぼう天とか美味かぞ」 「ごぼう天は好き」 「そうやろ?あとな、神社がいっぱいあるぞ?ここは教会ばっかやろ?お櫛田さんからな山笠が出るとぞ!」 そんな話を聞いた。 あれって、俺を引き取りたかったの? じい様ってば……それじゃあ、分かんないよ!! 俺は思わず笑ってしまった。

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