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しんしんと……6話

笑い声がじい様達に聞こえたみたいで、「ユノ、起きたんか?」と俺の側に来た。 「お腹空いてない?」 雅美さんも側に。 「……うん、空いてない」 俺は起き上がる。 「松信さんとこの苺あるぞ?」 「苺?食べたい」 苺って聞くと何故だか食べたくなる。 「持ってくるね」 雅美さんがキッチンへ。 「じい様……俺、引き取るつもりだったの?」 「なんや?聞いとったんか?」 「うん……ありがとう。嬉しい」 「こん家もな、リフォームちゅうやつばしてユノが来るならって婆さんも言いよった」 「だから、貸してくれたんだ」 一軒家をポン!!と貸してくれる理由が分かった。 「そうたい、もっと、若い子向けにしたったばってんな」 「このままでいいよ、俺、好きだもん、畳とか縁側とか……縁側には犬か猫欲しいけど」 「なんや?ユノは犬とか飼いたいとか?」 「そうだね、施設では飼えなかったし」 「そうか」 じい様は腕を組んで何か考えているようだ。 どうしたの?と聞こうとしたら雅美さんが苺持って戻って来た。 松信さんの苺は美味しい……食欲ない時でも食べたくなる。 「美味しい」 甘い苺の香りが部屋に充満していて、幸せな気持ちになる。 「ユノ、苺なら食べれるのか……まだ、冷蔵庫にあるからね」 「本当?」 苺がまた食べれる!!俺は嬉しい。 何で、こんなに嬉しいのかな?苺があるから? ……ううん、違う。 「じい様……ありがとう」 「ん?苺か?松信さんに言うとくぞ」 「違う……俺を引き取ろうってしてくれてたから」 こんなに嬉しいのはコレが原因だ。 凄く、嬉しいよ。誰かに必要とされるって。 「雅美さんもありがとう」 俺がそう言うと雅美さんは俺の頭を撫でてくれた。 「バア様もユノと暮らしたがっていたよ」 「本当?」 「うん、早く連れこんね?って急かされてた」 「ほん……とうに?」 凄く凄く嬉しい……ここで、必要とされていた。 頭にあった雅美さんの手が頬にきて「ユノは本当は泣き虫なんだよね」と言われた。 「そうぞ、泣く時は思いっきり泣け、バカちんが!!」 じい様がまるで金八先生みたいに怒る。 泣くのを我慢してしまう癖が未だに抜けなくて……声を殺して泣くのが当たり前で、誰にも気付かれずに泣くのが普通だった。 誰も慰めてくれないし、泣くと迷惑かかってしまう。 我慢するのが日常だった。 でも、今は良いみたい……泣いても。 泣いたら慰めくれる人達がいるんだ。 いつの間にか側に居てくれる人達。 ◆◆◆◆ 「ユノ」 アキラさんの声。 目を開けるとアキラさん。いつの間に? 「アキラさん……おかえり」 「ただいま。良い子にしてたみたいだな」 「うん」 「まーと、じい様はさっき帰ったよ。起きたらユノに薬飲ませろってさ」 その言葉で雅美さんとじい様が帰ってしまったんだと寂しくなった。 「アキラさんあのね」 俺はじい様が俺を引き取りたかった話をした。 「……そうか、だったら俺とユノはもう少し早くに会ってたかもな……流石に子供のユノには手を出さないけどな」 「……子供じゃないのに手を出さないじゃないですか?」 俺は、つい、そういってしまった。 アキラさんが困った顔をしたので、余計な事を言ってしまったかな?と不安になる。 「……子供じゃないのは知ってる……」 アキラさんの顔が近付いたと思ったらキスされた。 直ぐに離れると「本当、煽るのが上手いよなユノは」と微笑まれた。 「怪我とインフルエンザ治ったら覚悟しろよ」 頭をくしゃくしゃと撫でられる。 「とうに出来てます」 とっくに覚悟なんて決めている。 大人になるんだ。 じい様の優しさが後押ししてくれる気がして、ちゃんと大人になれる気がした。 ◆◆◆◆◆ インフルエンザも治り、また、仕事復帰が出来た。 じい様と雅美さんと3人で過ごせる嬉しさを倍に感じてしまった。俺は単純なのかな? 早く怪我治らないかな? なんて、考えてしまったら、自分が凄くエッチな奴だったんだって気付いて、ああ、俺も男だったんだな?誰かを好きになって、触りたいとか、愛されたいとか…………セックスとか興味持つとか。自分でもビックリだよ。 今まで考えた事無かったから。 成長出来てるのかな? まあ、よしとしよう!

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