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しんしんと……7話

◆◆◆◆ 「ユノ、病院!」 午後、雅美さんに言われた。 「また、そんな顔して。そんな拗ねた顔しても行かなきゃいけないんだから」 雅美さんはクスクス笑う。 拗ねた顔?俺、そんな顔してんの?鏡ないから分からない。 「多分、今日で最後だと思うよ?痛みとかないでしょ?」 「本当?」 「あはは、今度は嬉しそうな顔。ユノはわかり易くていいね」 雅美さんは笑いながら俺の頭を撫でる。 「じい様、ユノを病院に連れて行くから後よろしく!」 「ほーい!」 雅美さんが奥に声を掛けるとじい様の声が返ってくる。 「じゃあ、行こうユノ」 雅美さんは俺の手を握る。 手を繋いだまま、車まで……病院の行き帰り、雅美さんと良く手を繋いでいる事に気付く。 多分、俺が逃げたりするから。だから雅美さんから手を握ってくる。 でも、嫌じゃなくて寧ろ、安心するんだ。不思議だよね。手を握られるだけで安心するって。 俺も小さい時は良く手を繋いで貰ってた。俺が迷子にならないようにだけど。俺は当時、人が多い場所が苦手だった。 何時もは父親と2人だけなのに、急に沢山の人達が行き交う大通りや、天神の街とか連れて行かれると思わず父親の手を握った。 繋いだ手を離すのが怖い。 いつの頃からか……手を離されるのが怖くなった時があった。 手を離されたら置いていかれるようで。 「ユノ?」 名前を呼ばれて雅美さんを見る。 「車、乗れないよ?」 いつの間にか車の前で、手を繋いだままじゃ車には乗れない。俺は慌てて手を離した。 雅美さんはニコッと笑い、俺を助手席へ。 運転席に雅美さんが乗り込みシートベルトをして、エンジンをかける。 車がゆっくりと走り出すと「ユノ、手!!」と言われたので自然に手を出すと握られた。 ぎゅっと握られると安心する。 雅美さんは手を繋いだまま運転してくれて、病院に着いた。 ◆◆◆◆ 病院ではもう大丈夫だと言われたから安心した。 お金の心配しなくて済むし、これ以上、迷惑をかけなくて済むから。 アキラさんにも雅美さんにも……そして、じい様にも沢山、迷惑かけてしまった。 でも、迷惑かけたとか言ったら叱られそう。 迷惑じゃないって。 俺は誰にも迷惑かけないように生きてきたから、どうしてもそこを心配してしまうんだ。 俺なんか……って思ってしまう。 これを言葉すると俺の大事な人達は悲しい顔をするって最近気付いた。 やっぱり、少しは大人になってるかな? 「川畑!」 マキタの声が聞こえて振り向いた。 「怪我、まだ治らないのか?」 俺に近寄ってきてそう言うマキタの顔は何だか心配そうに見える。 「もう、大丈夫だよ」 俺は包帯が取れた手を見せる。 「そうか、大丈夫なんだ!良かったな」 ニコッと笑うマキタ。 そして、高校の頃のマキタが記憶がふと甦る。 俺が風邪で1週間休んだ時、「川畑、もういいのか?」と教室入ると直ぐに声をかけてくれた。 「うん」と答えると、今みたいに笑って「そっか!良かった」って言ってた。 あの時も……そうか、心配してくれてたんだ。 あまり深く考えなかったからな。 「ありがとう」 素直にお礼が言えた。 「うん……今日、お兄さんは?」 マキタはキョロキョロと辺りを見ている。 「一緒だよ?何で?」 「えっ、あ、もし、1人だったら飯どうかな?って思ったんだけど……そっか、お兄さんと一緒か」 「うん、一緒」 俺がそう答えると「川畑って休みの日とか何してんの?」と質問してきた。 「えっ?写真撮ったり……海行って写真撮ったり……公園で猫の写真撮ったり……」 質問に答えるとマキタは笑い出した。 「写真ばっかだな……高校の時も良く写真撮ってたもんな」 クスクス笑いながらに言う。悪いかよ!って思う。 「たまに掲示板とかに川畑の写真が貼ってあってさ、空の写真をいつだったか見たんだけど、凄く綺麗だったなあ……あれってどこの?」 「えっ?どこって……」 俺は考えた。貼られていた写真……空……えっーと……。 あっ!! 「学校の屋上」 思い出した。学校の屋上だ。 普段は入れなかったけれど、点検で業者が入った時に屋上への鍵が開いてて黙って入った時に撮ったんだ。 「学校の屋上かあ……綺麗だったな。写真って持ってるのか?」 「ううん、そのまま学校の写真部に残ってると思うよ?何で?」 「いや、綺麗だったから欲しいなって」 欲しい……。マキタはやはり変わっている。俺に構うとことか、昔の事を俺より覚えている事とか写真が欲しいとか。 「あとさ、雪の写真撮ってたろ?あれも綺麗だった」 「雪?」 「降ってくる雪を真下から撮ったような写真……あれも綺麗だった。ほら、雪が降る時しんしんと降るって言うだろ?お前の写真みた時に……しんしんってこういう事かって思った」 マキタはまた、ニコッと笑う。 やはり、コイツは変わって……ううん、不思議な奴だ。 「ユノ!」 雅美さんの声がした。 「あ、お兄さん来たね」 マキタは俺に手を振り、そして、雅美さんにも軽く会釈して去って行った。 「マキタ君と一緒だったのか、戻って来ないなって心配した」 マキタが去った後に言われた。 「ごめんなさい」 「ふふ、謝らなくていいよ?何話してたの?」 「写真」 「写真?」 「俺の写真の話」 「そっか、お医者さんは何って?もう大丈夫って?」 「うん」 「良かったね」 雅美さんはさっきのマキタと同じ顔をして笑った。

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