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さらさらと……5

店の前に誰か立っている。 店先に飾ってある写真をじーっと見つめているのは松信じいさん。 苺のお礼を言おうと走り寄る。 「おはようございます。あの、苺、ありがとうございました。凄く美味しかったです」 頭を下げると、 「もう良かとか?」 包帯を巻かれた手をじーっと見る松信じいさん。 「はい」 「そうや、良かった」 ………会話終了。 沈黙が続くと思ったら雅美さんが、 「中、どうぞ」 とドアを開けた。 「じいちゃーん、松信さん」 奧に声をかけると、中から爺様登場。 「何やユノ、こげん早う来て、ゆっくりで良かとぞ?どうせ役たたんし」 ニヤリと笑う爺様。 憎まれ口に俺は笑う。 爺様の優しさ。 怪我人だからとチヤホヤされるのが嫌な俺を知っている。 「ひどかー」 おかげで、堅苦しい挨拶をしなくて済んだ。 「じゃー奧に居るけんな」 爺様は松信さんと一緒に奧へと消えて行った。 確かに役立たずの俺は手伝いの半分も出来ない。 でも、落ち込むわけにもいかずに、出来る事をやっていく。 「ユノ、お昼どうする?」 12時過ぎ、雅美さんが声をかけてきた。 何時もなら爺様にパシりにさせられるが、今日は流石に無いだろうな。 「お弁当をアキラさんが作ってくれて」 俺は袋を机に置く。 「愛妻弁当、あ、愛夫弁当」 愛夫………、 その言葉に一気に顔が熱くなる。 俺が相談したい内容を急に思い出したから。 そうか、アキラさんは夫か。 「な~んか、可愛かねえ。その反応」 雅美さんはクスクス笑って頭を撫でた。 お茶までついでくれる。 「あ、雅美さんとじいちゃんにもってアキラさんが」 「まじ?あ、確かに量多いなあ」 袋の中にはまだ容器があって、雅美さんは中を覗いている。 「じゃあ、頂くね」 ニコッと笑う雅美さん。 爺様の分は別にしておくらしい。 松信さん来てるもんね。 雅美さんと2人弁当を食べていると、 ガタガタ、 奧から大きな音がした。 何? 何か倒した?と雅美さんと目を合わす。 「まー、早う救急車ば呼べ!」 奧から爺様の声がした。 何時もはのんびりな雅美さんが携帯片手に奧へと急いで行った。 もちろん、俺も後を追う。 奧の部屋で松信さんが倒れていて、 俺は驚いて立ちすくんでしまった。 こんな時ってどうして良いか分からない。 でも、雅美さんとじいちゃんはテキパキと動いて、 携帯を耳にした雅美さんはきっと救急隊の指示を聞いてるのだろう、 言われた事をじいちゃんに言っている。 そして、情けない事に俺は何も出来ない。 しばらくすると救急車のサイレンが聞こえてきた。 「ユノ、表に出て、救急隊を誘導して」 雅美さんの声に俺はアタフタしながら表に出た。 表に出ると救急車が商店街の中まで入って来ていたから、慌てて両手を上げて場所を伝える。 何事かと商店街の人たちが救急車を見ていて、店の前に停車すると、 大丈夫や? じいさんや? 等、声を掛けられた。 違うとしか答えられない俺はかなりテンパっているんだろうな。 まもなくして松信さんを救急隊が連れ出して、 じいちゃんは俺と雅美さんに、 「後から連絡すっけん待っとけ」 と言葉を残して付き添って行った。 救急車がまたサイレンを鳴らしながら走って行く。 俺はまだドキドキが止まらない。 「とりあえず、中で待とう」 雅美さんに背中を押されて店に入った。 「松信さんね、心臓が悪くってね」 雅美さんは俺を椅子に座らせて、説明をした。 松信さんは元々は身体が丈夫な人ではないらしく、特に最近は医者に定期的に通っていて、次、倒れたら入院と言われていたんだって。 俺にはそんな事さえも分からなくて、 じいちゃんに会いに頻繁に来てたから元気なんだと勝手に思っていた。 「大丈夫だからさ、ユノ、そんな顔しちゃダメだよ」 雅美さんに頭を撫でられた。 「ごめんなさい、俺…あんま、役に立てなくて。雅美さんとかは凄くテキパキしてたのに」 何だか自分が情けなく思えた。 「そんな事ないよ、救急隊を誘導してくれた」 ニコッと微笑む雅美さん。 「それは雅美さんが」 「でも、誘導したのはユノだよ」 頭を軽くポンポンとされた。 雅美さんは優しい。

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