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さらさらと……6

落ち込む気持ちが元気になる。 「ユノ、まーっ」 凄い勢いでアキラさんが店に飛び込んできた。 「アキラ」 「アキラさん」 俺と雅美さんはちょっとビックリした。 「救急車が店の前に停まってるって聞いて」 慌てたようなアキラさんは俺を見て、 「ユノだったらどうしようって…」 少しホッとしたような顔を見せたけど、すぐに、 「運ばれたのはじいちゃん?」 と不安そうな顔に戻った。 「松信さん。じいちゃんがついて行ってる」 「松信さん?どこか悪かったん?」 「心臓がね。」 「そうか、心配だな」 「アキラ店は?」 雅美さんはアキラさんが手に持つハサミを指差す。 「あっ」 アキラさんは短く声を上げ、 「また、来るから」 慌てて帰って行った。 「アキラ、客を放置して来たみたいだね」 走って行くアキラさんの後ろ姿を見つめながら雅美さんは呟く。 「……慌てて戻りましたもんね」 「きっと、運ばれたのはユノかもって思ったからだね。かなり心配して送り出したから」 そう言われ俺は照れた。 もちろん松信さんも心配だけど、 あんな風に心配して来てくれるアキラさんを嬉しく思った。 不謹慎かな?神様ごめんなさい。 それから夕方近くなってじいちゃんから連絡が来た。 松信さんが入院するから、着替えを持って来て欲しいと。 「ユノ、松信さんの着替え取りに行くから店は早めに閉めるよ」 雅美さんは片付けを始め、臨時休業の貼り紙を入り口に貼り付けた。 「車で行くからすぐ戻るけど、ユノはアキラんとこ行って終わるまで待つといいよ」 「俺もいく!」 俺がそう言うと困った顔をした雅美さんに頼み込む。 すると、 「分かった」 頭をポンと叩かれ、微笑んでくれたので、ホッとした。 雅美さんの車に乗り込むと、シートベルトをつけてくれた。 松信さんの家に行くのは初めてで、しかもどこに住んでいるのは俺は知らない。 苺を作っているから都心ではないだろうなって思った通り、車は都市高を降りて、街並みが少ない場所を走っている。 「雅美さんは松信さんの家を知っとるとですね」 「うん。昔は良く遊びに行ってたからね。裏山にカブトムシとか沢山居たから子供の頃は夏休みになればじいちゃんと行ってたもん」 カブトムシ…… 確かに沢山居そう。 そんな雰囲気がある風景へと変わっていた。 **** 松信さんの家は昔ながらの日本家屋だった。 デカい。 道を挟んで家の向かい側に苺のビニールハウスがあった。 雅美さんは慣れた感じで植木の下から鍵を出して玄関のドアを開ける。 俺も一緒に中へ入る。 「ユノ、足元気をつけて」 家の中が少し薄暗くて、雅美さんは俺を気遣ってくれる。 「着替えを出すからユノは着替えを入れれるような袋とか見つけてきて」 「はい」 雅美さんが遊びに来ていたって本当なんだなって感じたのが迷いもせずに中を進んで行くから。 俺は他人の家を家捜しするのがちょっと悪い気もして、 なるべく、家具に触れないようにしながら捜す。 キョロキョロしながら入れ物を捜していたら箪笥の上に紙袋っぽいのが目に入った。 手を伸ばす。 届きはするものの、片手しか使えない俺はかなり苦労する羽目になる。 袋だけ、取りたいのに余計なモノもずれてしまう。 雅美さんを呼ぼうか? なんて悩んだけど、勝手に付いてきて、余計な仕事までしなきゃいけないのは悪いよね? なんて思い、袋を勢い良く引っ張れば取れるんじゃないかと、引っ張ってみた。 やらなきゃ良かったと後悔した時には袋と一緒に箱も落ちてきた。 ドサドサッ、と派手な音がしたもんだから、 「ユノ、どうしたの?」 雅美さんが慌てて走ってきた。 「ごめんなさい」 俺は足元に散乱する箱と箱の中身を見下ろした。 足元には写真が散らばっている。 松信さんが1人で撮ったものと一緒に、 家族で撮った写真もあり、写真館で撮った写真みたいだった。

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