102 / 133

アツアツと……5話

幼稚園の仕事は楽しかった。 「お兄ちゃん先生」とか子供達に呼ばれて嬉しかった。 「ユノはこういう仕事してる時、本当にイキイキしているね」 帰りの車の中で言われた。 「そうですか?」 「子供達もすっかりユノに懐いてたし」 「楽しかったですもん……俺、子供の頃、友達とかと遊んだ記憶ってあんまりなくて……なんか、部屋の隅っこで本ばかり読んでて、外で遊ぶとかか考えなかったから」 「……どうして?」 「だって、泥遊びすると服汚れるでしょ?施設では先生達が洗ってくれてたけど、子供服ってお下がりとかき回しとかだったから余計な手間かけさせるのも悪いでしょ?だから」 大人しくしていれば、先生達にも迷惑かからないし、余計な手間もかからない。 「……ユノ」 雅美さんは俺の頭にポンと手を乗せた。 「気を使いすぎだよ……ユノは」 「そうですか?だって、他人に迷惑かけれないじゃないですか?」 「それは今もそう思ってる?」 「へ?」 「僕やじい様、アキラを他人と思う?」 その言葉にビックリして雅美さんを見た。 雅美さんはゆっくりと俺の方を見て「僕はユノを他人だとは1度も思った事ないよ?」も微笑んだ。 「お、俺だって!」 なんか、力入ってしまった。 「本当?」 「本当です!!」 「うん、信じるよ」 雅美さんは頭に乗せた手を下へ戻すと俺の手を掴んだ。 「ユノ、約束して……遠慮しないって」 雅美さんの小指が俺の小指に絡む。 「しません」 「ふふ、じゃあ、指きり」 雅美さんは指切りげんまんを歌う。 なんか、可愛いなって思った。 指切りげんまん……ふと、まだ父親と暮らしていた忘れそうなくらい昔の思い出が過ぎって行った。 「ユノ、指きりしよう」 そう言って俺の小さな小指に父親の指が絡んできて……正確には俺が父親の指にフックみたいに小指をかけた。 何の指切りげんまんだったのか忘れてしまった。 でも、嫌な気持ちにならないから、きっと良い約束か何かだったのだろう。 「ご飯食べて行こう……近くに美味しい食堂があるから」 雅美さんオススメのお店。ちょっと興味ある。 「いつも行くんですか?」 「んー、ここんとこ来てないな?学生時代かな?かなり、前だから切り盛りしていたお婆さんとか亡くなってるかも」 んん?お婆さんというより、お店自体が無くなっている可能性とか考えないのかな?雅美さん。 でも、お店はまだあった。 「あれ?雰囲気変わってる……立て直したのかな?」 駐車場に車を停めて降りると「川畑!」と名前を呼ばれた。 聞き覚えのある声。 「あ、マキタキイチ」 「フルネームかよ……」 マキタキイチはそう言って笑った。

ともだちにシェアしよう!