「こんにちは」 雅美さんはマキタキイチに挨拶する。 「川畑のお兄さん、こんにちは」 マキタキイチも挨拶を返す。 「じゃあ！」 俺は別に話し込む話さえも持っていないので先を急ぐように遮る。 「ちょちょちょ、川畑冷たい」 マキタキイチは俺の腕を掴む。 「冷たいって……話し込むような仲じゃないし」 「ちょ！！おまっ！そんなハッキリと」 「こらこら、ユノ！」 雅美さんが俺とマキタキイチの間に入る。 「ごめんねえ、うちのユノが」 ぺこりの頭を下げる。 「何してるの？」 「あ、飯食おうかと」 雅美さんの質問にマキタキイチは食堂を指さす。 「へえ、同じ所に行くとか偶然だね」 「えっ！川畑達も食堂に？美味いんですよねえ……俺、バイト先の先輩に教えて貰ってからずっと通っているんですよ」 ニコッと嬉しそうにするマキタキイチ。すると雅美さんは「じゃあ、一緒に行く？」と誘った。 「えっ？いいですか？」 「だって、同じ店に入るんだよ？」 雅美さんは物怖じしないというかコミニュケーション能力高いよね。 「じゃあ、一緒に」 マキタキイチは嬉しそうにしている。 「ほら、ユノも」 雅美に腕を引っ張られて店に入った。店内はリーマンで埋めつくされている。 「相変わらずむさくるしいねえ」 雅美さんは懐かしそうに店内を見ている。 「いらっしゃい！空いてる席にどうぞ」 カウンターから白髪まじりの頭をした男性が声をかけてきた。凄く優しそうに見える。 俺達は丁度空いた席に座った。 「ユノ何食べる？」 雅美さんに聞かれて「オススメは？」と聞いたら「とり天定食」と雅美さんとマキタキイチの2人の声が揃った。 「えっ？お兄さんも好きなんですか？」 「うん、マキタくんも？」 「はい！ここに通う3日の内、2回はとり天です」 「あはは、余程気に入ったんだね……ユノはそのオススメにする？」 「うん」 俺が返事すると雅美さんが3人分注文してくれた。 「川畑達は仕事？」 チラリとマキタキイチは俺を見た。でも、俺が答えないので「そうだよ、幼稚園のイベントに参加してたんだ、マキタくんは？」と返事をする雅美さん。 「イベント？何で幼稚園に？」 キョトンとしているマキタキイチ。 「写真屋だからね、園児達の写真撮ってたんだ」 「あ！そうか……ああ、そう言えば学生時代、遠足とか修学旅行に同行してカメラ構えていた人って学校関係者じゃなくて写真屋さんかあ」 マキタキイチは納得したみたいに頷いている。確かに俺も見かけない先生だな？こういう人いたっけ？って思ってたもん。 「そうそう、それね。で？マキタくんは何の帰り？」 「あ、バイト帰りです」 「そう言えばマキタくんって何のバイトしてるの？前は良く病院で会ってたけど」 「病院は弁当とかの配達です、で、今日は引越しのバイトです」 「掛け持ちしてるの？偉いね」 「いや、偉くはないです……」 なんか照れている。見ていて面白い。 「金が必要になって……親父が入院してて……まあ、配達ついでに見舞いとか行ってるんですけど」 「あ、そうなんだ……なんかごめんね。余計な事聞いて」 「いや、全然」 マキタキイチはニコッと笑うと俺を見た。 なんだよ？と思ったら、「川畑って本当、無口だよな……これ迄の会話に一切入って来ない」と言われた。 だって、雅美さんとの対話だったじゃん？どこに俺が入る隙間ある？と思ったがこれは言葉にはしない。 「ユノ、疲れちゃった？殆ど、ユノがやってくれたから」 雅美さんの言葉に大丈夫と首を振る。 「なんか、話せよ……もしかして、俺が一緒なの嫌だった？」 急に寂しそうな顔をされた。なんだよ、突然！！今のいままで雅美さんと会話してたのに、いきなり俺に話を振ったあげくになんか、俺……悪者っぽいやんけえぇぇ！！