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さらさらと……8

「松信さん世代には良くある事なんだけど、小学校までしか出てないんだよ松信さん……その小学校も家の手伝いとかであまり行けなくて、平仮名は書けるけど漢字は小学校止まりなんだ。……だから、難しい漢字ばかり使われている息子さんの手紙は読みたくても読めないんだ」 俺は言葉を失う。 じいちゃんの元に通っていたのは、文字を習う為だったんだ。 じゃあ、やっぱり松信さんはとっくに息子さんを許している。 あまり話さないけど松信さんが悪い人ではないと分かってた。 作っている苺は凄く美味しくて、 愛情を注がないと美味しくならない。 たった1人で、黙々と苺を作って…… 広い家の中で、どんな気持ちで過ごしていたのかな? 写真を撮りに来るのも、いつかは息子さんと撮りたいのかもしれない。 家族写真を見て分かった。 松信さんが居る位置の意味。 奥さんと息子さんの居る位置を作っているんだ。 「ユノ」 雅美さんに頭を撫でられて顔を上げると、雅美さんの手がほっぺにきたから驚いた。 でも、指先が何かを拭うような仕草で気づいたのは、自分が泣いていた事。 「ユノが泣く事ないよ。でも、ユノは優しいから」 雅美さんの手は温かくて優しい。 「いつか、一緒に暮らせるようになればいいね。息子さんには家族が居て、松信さんには孫も居るんだよ。会わせてあげたいね」 その言葉に俺は頷く。 「うん、会わせてあげたい」 「とりあえずは着替え」 雅美さんは微笑むと写真を元の場所に戻した。 着替えを入れた袋を持ち、俺達は車で来た道を引き返す。 雅美さんは俺が泣いたから、ずっと気にしてくれて、手をぎゅっと握ってくれた。 雅美さんは俺が泣いた理由を知っている。 寂しい気持ちにリンクしてしまったから。 一人がどんなに寂しいか俺が知っているから。 雅美さんとじいちゃんとこに来るまで1人ぼっちだったから。 過剰に反応してしまった。 反省。 ***** 病院へ行くとじいちゃんが待っていた。 「何やユノも来たとか、病院好かんくせに」 じいちゃんは俺を見てニヤリと笑う。 まあ、確かに好きではない。 「心配やけん、松信さんは?」 「薬が効いてるけん朝まで起きん」 「大丈夫なの?」 雅美さんも心配そうに聞く。 「入院がちょっと長引くかも知れん」 「えっ?」 俺は最悪な事を一瞬考えてしまった最低な奴です。 「年寄りが無理して農作業とかしよったけんな、ユノ、お前が心配するような事にはならんけん、安心しろや」 じいちゃんはやっぱり俺の心を読むのが凄い。 それとも、顔に出やすいのかな? 「着替えば病室に置いて来るけん、まーはユノば連れて帰れ。ユノも病人」 「うん。じいちゃんはどうやって帰るん?ユノ送ったら迎えに来るけど?」 「おいの事は気にするな。帰りに中州に寄るからよ」 じいちゃんはニヤリと笑うと病院の中へと歩いて行った。 中州? 雅美さんの顔を見ると、 「中州にね、松信さんの苺を使ってる店があるから、入院した事を伝えに行くんだよ」 そう説明された。 中州イコール飲み屋街&風俗的な脳みそな俺の誤解を説く為の説明。 いや、じいちゃんはこんな緊急時にいかがわしい店には行かないと俺だって思ってたし! 「ユノ、帰ろう」 雅美さんに背中を押され歩く。 「明日、お見舞い行けるかな?」 「うん。一緒に行こう」 髪をサラサラと撫でられた。 「あ、そう言えばユノの相談って?」 走る車内で、突然言われた。 「あっ……」 いや、相談出来ないでしょ?こんな大変な時に。 「ううん、大丈夫」 俺はそう言って笑う。 「本当に?切羽詰まったような顔してたけど?」 うっ、そんな顔してたんだ。 「いや、本当に大丈夫だから」 焦るように手で髪をかきあげた。 その手をふいに掴まれ。 「ユノの嘘つく時の癖」 雅美さんは笑う。 えっ?そんな癖あったの? 自分で驚く。 雅美さんはそんな俺の髪をまた、サラサラと撫でた。

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