45 / 133
ザワザワと……3
松信さんの家からの風景がかなり絵になるから、パシャパシャと撮りまくった。
畑も、山も空も、全部撮って、
遠巻きに家を撮りたくなって、少し離れた。
何枚か撮っていたら風景の中に人物が入り込んできた。
畑と山しかない風景に似合わないスーツ姿。
後ろ姿だけど、中年って雰囲気が伝わって、
少し離れた場所に車が停めてあるから、きっと遠くから……
あっ、まさか。
男性が見ている方向には松信さんの家がある。
まさか、まさか……
松信さんの?
ドクンと胸が脈打ちだして、 思い切って、
「あの、」
と声をかけた。
男性は驚いたように振り向き、
俺が次の言葉を発する前に車の方へと方向を変えたので、
俺は慌てた。
「待って、」
と駆け出そうとして、何かに躓き、見事に転んだ。
「いたっ」
転んだ拍子に怪我した手をついてしまい激痛が走る。
鈍い痛みに顔が歪む。
「大丈夫?」
幸か不幸か男性が戻って来てくれた。
「立てる?」
そう言って手を差し伸べてくれる男性の顔は、松信さんに似ていた。
やっぱり。
松信さんの息子さんだ。
「はい、大丈夫…」
です。と立ち上がるつもりが、
「いった、」
足首がズキンと痛む。
*****
「ユノ」
驚いた顔の雅美さん。
なんせ、男性に支えられながら戻って来たんだから。
「あれえ、よっちゃんやなかね?」
田中さんが男性を見て名前を呼ぶ。
「洋一さん」
雅美さんも男性の名前を呼ぶ。
やっぱり、松信さんの息子さんだった。
「この子、足挫いてるみたいだよ」
洋一さんと呼ばれた松信さんの息子さんは俺を雅美さんに引き渡す。
足をつけないくらいに痛むから俺はヨロヨロしている。
そのせいで洋一さんは俺を支えてくれた。
凄く優しい人なんだと思う。
あの時、俺を置いて行く事だって出来たのだから。
今も身体を支えてくれる。
「洋一さん、ユノを松信さんの家に連れて行きたいから手伝って下さい。田中さんは湿布とかあったら分けてもらえます?」
雅美さんは洋一さんと田中さんに指示を出して、俺を家へと連れて行く。
雅美さん、機転を効かせたんだと思う。
洋一さんを引き止める為。
****
「いたっ」
家へと上がり込み、俺は座らされて足の様子を雅美さんに見て貰っている。
触られる足はズキズキと痛む。
「じゃあ、帰るよ」
洋一さんが玄関へと向かおうとする。
「待って!待って下さい!」
洋一さんを呼び止めたのは俺。
このまま帰したら後悔する!
凄く必死だった。
どうしたのか?という表情で俺を見る洋一さん。
確かに初めて会った子に待ってとか言われても、戸惑うよな。
「松信さんが入院したんです!お見舞いに行きませんか?」
俺の言葉に驚いた顔を見せる洋一さん。
暫く黙った後、
「どうして?」
と質問してきた。
どうして?
そんな質問されるとは思っていなかった俺は言葉につまる。
「松信さんは心臓が悪いんです。本当は苺栽培も止められてて……でも、止めないんです。どうしてだと思います?」
言葉につまった俺の代わりに雅美さんがそう言った。
「さあ?生活の為でしょ?」
洋一さんは無表情で答える。
「洋一さん…子供の頃、苺好きだったんでしょ?」
「えっ?」
少し表情を変える洋一さん。
「だから止めないんですよ。」
ニコッと笑う雅美さん。
ともだちにシェアしよう!