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あらあらと……16話

◆◆◆ 「ユノ、祭り行くんか」 じい様は俺にこっそりと小遣いを渡してきた。 いいよ、って言ったのに「持ってけ」と引き下がらないのでじい様への土産を買おうと受け取った。 本当、子供扱いというか……嬉しいけど。 じい様が俺を子供扱いするのは嫌いじゃない。むしろ、嬉しい。きっと、お父さんと子供ってこんな感じだから。 「気をつけてな……まーには言ってるから。大丈夫とは思うけど」 じい様はかなり心配症なのかな?俺を気にしてくれる。 「ありがとう」と言って3人で祭りへ向かった。 交通機関を使うのかと思っていたらアキラさんが車を出してくれた。 運転がアキラさんで助手席を雅美さんに……と思ったのに俺が助手席へと行かせられた。雅美さんを後部座席とか失礼かな?なんて思ったのに。 3人で出掛けるのは初めてて、実はちょっとドキドキして楽しいしテンションが上がっているのだ。 「ユノ、いっぱい食べたい物言えよ?買っちゃるけん」 アキラさんに言われた。 「それは大丈夫……じい様が小遣いくれた」 「マジで?じい様どんだけユノを可愛がってんだよ」 アキラさんは驚きながらその後は笑った。 「じい様、ユノが友達とどこか行くの嬉しいみたいでさ、祭りに行くってユノから聞いて小遣い持たせなきゃってさ」 後部座席から雅美さんがクスクス笑いながら教えてくれた。 「じい様にお土産買ってく」 俺がそう言うと「喜ぶよ」と雅美さん。 そして、会場へと着いた。 とりあえずは貴一が手伝っている店へと3人で車を降りて歩いていく。 歩く度に祭りの独特な音と雰囲気を感じた。後、匂い。 美味しそうな……1番初めに感じた匂いはソース。 たぶん、焼きそばとかお好み焼きとかはし巻かな? それとイカ焼きの匂いと甘い香もしてきた。 子供達のはしゃぐ声も聞こえてきた。 親子連れが多くて凄く楽しそう。子供はお祭り好きだもんね。俺も……好きだったと思う。 たまに施設で先生達と近くの祭りに出掛けるイベントがあった。 でも、俺は熱を出したり体調崩したりして行けなくて先生が1人残ってくれて申し訳なかったなあって今でも思う。 先生にごめんなさい。って謝ると「ユノ君の方が皆でお祭り行きたかったでしょ?先生はいいの」と頭を撫でてくれた。 そして、皆戻ってくるとそれぞれ俺にお土産を買ってきてくれた。お小遣いは皆決められていて、そんなに持っていないはずなのに……俺より年下の子まで「ユノ兄ちゃん、お祭りいけなかったから」って小さいボールを貰った。凄く申し訳なかったけど、嬉しかった。 一緒に行った先生もお土産買ってきてくれて、プチお祭りみたいで嬉しかったなあ。 「あー!ユノ!!」 貴一のでかい声が聞こえてきて、直ぐに手伝っている店を見つける事が出来た。 貴一は頭にバンダナ巻いてエプロン姿でそれなりに見えて笑いそうになる。 「なんや?貴一の知り合いや?」 一緒に居た中年男性が俺達に視線を向けた。一件怖そうな雰囲気だけど、直ぐにニコッと笑っていい感じの人。 じい様も見た目怖いけど、中身は可愛いからな。見た目じゃわかんない。 「俺が話した高校の時の友達」 「ああ、そうか、へえ、イケメンやねお兄さん、3人ともイケメンばい、こん3人おったら女の子の客が増えるばい、貴一じゃ増えん」 「はあ?何言ってんだよ!俺だってさっきカッコイイって」 「カッコイイ言ってくたとはオバサンやったやん、若い子に言われないとダメとばい?オバサンのカッコイイはアテにならんけん」 「酷い!!」 2人の会話につい笑う。 「はし巻3人分」 雅美さんが注文を。 「あ!!払う」 俺とアキラさんの声がハモった。 「いいよ、ユノはもちろんだけど、アキラにも奢っちゃる」 ニコッと微笑む雅美さん。 俺は雅美さんの笑顔に弱いけど、どうやらアキラさんもみたいで奢って貰う事になった。 「貴一、休憩いつ?」 貴一に話しかけると「おう、持って行っていいぞ、コイツ、朝から友達が来るからってうるせえんだ!あまり、友達が多い方やないけん、遊んでやってよ」とオジサンがはし巻3人分焼きながらに言う。 「休憩いいの?」 「いいよ、お前、その子来ると待っとったっちゃろ?ソワソワしやがって遊んでこい!」 「えへへ、ありがとう」 オジサンの言葉で貴一が俺を待っててくれた事になんか照れくさかった。 ソワソワとかしてたんだ?と想像したら笑いそうになって、心もなんかポカポカしてしまった。 友達ってなんかくすぐったいもんなんだなあ。あと、ちょっと幸せな気持ちになれる。 はし巻は貴一の友達だからって無料になるところを雅美さんが止めた。友達だから余計に無料はダメだって、商売なんだからちゃんと取ってって。雅美さんは写真屋やってるから同じ客商売だと話すと「商店街の写真屋?」とオジサンが知ってた。 どうやら、じい様と顔見知りで山笠でじい様に写真撮って貰ってるみたいだった。 「なんやあ、じい様んとこの子かそいならオマケしたいとけど、頑固そうやけんな、そげん綺麗な顔ばして中身は頑固オヤジやな」と雅美さんを見て笑うオジサン。 確かに雅美さんは頑固である。そこが雅美さんらしくていいんだけどね。 はし巻を食べながら4人で歩く。 「貴一んとこの美味しいね」 1口食べた感想。本当に美味しい。 「うん、ばり美味い」 アキラさんは凄い勢いで食べている、そして「もう1本買えば良かったなあ」とか言っている。 「半分やろうか?」 雅美さんは半分食べたはし巻をアキラさんに差し出す。 「イカ焼き買う」 「あっそ」 なんか2人は凄く馴染んでいるというか……さすが幼馴染。 こうやって小さい時からお祭りに行って、今みたいに食べたりないというアキラさんに半分ことかしていたんだろうなって2人の自然なやりとりにそう思えた。 そっか、友達ってそんな感じなんだなあ。 「貴一、俺待ってたんだ?」 さっきの話の様子ではソワソワしながら俺を待っててくれた事になる。 「ちくしょーあのオヤジばらしやがって」 貴一は恥ずかしそうだ。 「はし巻のオジサンって知り合いなだけ?」 「あー、親戚なんだ。だから俺を子供扱いする……まあ、こっちに友達があまりいないのもあるしさ、友達来るって言ったらなんか喜んでた」 友達があまりいないという言葉は俺を少し驚かせた。人懐こい貴一は友達が沢山いそって思っていたから。

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