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あらあらと……18話
◆◆◆
あの日、朝から俺はテンションが高かった。
お父さんがお祭りに行こうと言ったから。
その祭りを指折り数えて待った。
お祭り明日?って毎日聞いて、その度に「日曜日だよ」って笑って答えてくれた。
まだ、小さかった俺はお父さんとどこかに行くのが嬉しかった。
公園でも、コンビニでも、手を繋いで行ける場所はどこも嬉しくてワクワクした。
子供ながら家が裕福ではないのは感じていた。
必死で働いてくれるし、可愛がってくれた。
1度も殴られた事なんてないし、ご飯だって食べれた。
玩具はなんとなく自分で我慢した。でも、たまに買って貰えると嬉しくて嬉しくて寝る時も一緒だった。
そして、祭りの日。
その日は何でも買っていいよって言われた。
俺は嬉しくて色々おねだりした。
その度に嫌な顔せずに買ってくれて。でも、金魚すくいだけは「ダメだよ、死んじゃうかも知れないから」と言われた。
幼かった俺は死ぬってどういう事か理解していなかったけれど、ダメという言葉で諦めた。
その代わりにって風船とか綿あめとか買って貰った。風船なんて初めて買って貰って凄く嬉しくて上ばかり見ていた。
たくさん楽しんで、夕方になった頃「お父さん、ちょっと用事があるんだ、いい子で待ってて」と神社の境内近くに座らされた。
「うん」
「ごめん、ユノ」
「行ってらっしゃい」
俺はそのごめんがどんな意味なのか分からずに笑顔で手を振った。
だって、帰ってくると思ったから。待っててって言ったから帰ってくるって思ってた。
でも、どんなに待っても戻っては来なかった。
10分、20分と時間が経つつれて、幼い俺にだっておかしいと理解できて、立ち上がって周りをウロウロしながらお父さんを待った。
迎えに行こうか?きっと、迷子になっているんだ?と思ってその場から少し離れて「お父さん?」と呼んでみた。
ちょうど、その頃、俺がずっと境内にいたから神社の人が心配して「どうしたの?」って声かけてくれた。
「お父さん待ってるの」って言うと「ボク、ここにずっといるよね?お家分かる?」と聞かれた。
お家?
小さいアパートに住んでいたけど、住所なんて言えるはずもなく、電車に乗ってきたから1人で帰れない。
わかんない。と言った時はもう不安で涙がポロポロ零れた。
「よしよし、大丈夫だよ、オジサン達がお父さん探してやるから」
頭を撫でてくれたオジサンの手は温かくて、少しホッとした。
でも、「探してくる」って走り出して見事に転んで手に持っていた風船は空へと飛んで行ってしまった。
それが悲しかったのか転んで痛かったのか分からないけど、大声で泣きな出してしまって、オジサンが慌てて、俺を抱き上げてくれた。
「泣くな、オジサンがまた風船買ってやるから」
見知らぬオジサンは凄く優しい人だった。
いくら探してもお父さんが見つかる訳もなく、結局、警察が呼ばれた。
身元がわかるものがないかとオジサンと警察の人が俺の持っている小さい鞄を開けて、小さい紙切れを出した。
後で聞いた話。
その紙切れには俺の名前ともう、育てられないのでどうかお願いしますと書かれていたと。施設に預ければ良かったのだろうが、きっと、そこまで頭が回らなかったのかも知れない。
もしかすると、施設に預けるのにもお金がかかるとか思ったのかも。
記憶の中の父親はお兄ちゃんって呼んでもおかしくない年齢だったから。
一緒に歩くと兄弟に間違われた。
きっと、まだ10代だったんだろうって思う。
それを見つけ警察の人は俺を抱き上げて「大丈夫だよ、オジサンと一緒に行こう」と優しく微笑んでくれた。
神社のオジサンは俺に風船を買ってくれて手首に結んでくれた。
もう、飛ばされないようにと。
それとお菓子とかも買ってくれて、頭を撫でながら「大丈夫、これからだって、優しい人いっぱいいるよ、負けずに頑張れ」って何故か泣いてて。大人なのに何で泣いているんだろうって不思議だった。
今なら分かる。オジサンは俺が捨てられたって紙を読んで分かったから。
優しい人だったんだ。
警察の人に連れられて境内を離れる時に「いや!いかない!お父さん待っててって言ったもん!」と泣き出した。
今思えばバカだよな、帰って来ないのに。
それでも、帰ってくるって思ってた。待っててって言ったんだから戻ってくるって信じてた。
「絶対に戻ってくるもん!お父さんがそう言ったもん」
たくさん泣いた。
神社のオジサンも警察の人も何だか泣いてて、結局、俺はそれから施設へと連れて行かれた。
施設に行っても何度かあの神社へ行こうとして大人に連れ戻された。
俺を連れてきてくれた警察のオジサンはたまに様子を見に来てくれて、神社のオジサンからだよってお菓子をくれた。
いつの間にか脱走はしなくなった。迷惑かけるから。
ここに僕がいるってお父さんに教えてって警察のオジサンに必死にお願いしたりもした。その度にオジサンは悲しそうな顔をして俺を抱き締めてれた。
でも、次第に自分が捨てられたって分かってきた。
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