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あらあらと……19話
それから自分なりに考えた。
お父さんはどうして迎えに来てくれないのかと。
もしかして、嫌いになったのかな?とかあの日、お祭りでいっぱいオネダリしたからかな?とか。
お手伝いをもっとすれば良かったかな?なんて沢山考えて、考えて……でも、答えなんで出なかった。
お父さんがもし迎えに来てくれたらもう嫌われないようにって1人で何でも出来るようと施設では先生の手伝いとか、着替えとか俺より小さな子の世話とか一生懸命やった。
先生は俺が手がかからない良い子だと言ってくれた。
お父さんもそう思ってくれるといいなあって思った。
施設での時間が沢山過ぎていって、いつの間にかお父さんはもう迎えに来ないって悟った。
捨てられたんだって自分で認めた時に涙が止まらなった。
でも、施設の先生や他の子に泣いている所を見せたくなくて布団の中で声を殺して泣いた。
あのお祭りの日はさよならの日でだから沢山買ってくれたんだって。風船も綿あめも、最後のお父さんの優しさだったのだと。
あの日、金魚はダメだと言ったのは俺をもう連れて帰らないつもりだったから。
施設に引き取られるまでにきっと金魚は死んでしまうだろうと思ったんだ。
直ぐに水槽に入れてあげなければ死んでしまうだろうって。
後から、そういう事だったって分かった。
捨てるつもりだったから……って分かっても俺はお父さんを嫌いにはなれない。だって、楽しかったから。お父さんと暮らした僅かな時間は楽しくて笑っていたと思う。
施設に行った時に病院で診察を受けた。もしかしたら虐待に遭っていたかもって。質問もされた。
お父さんは叩いたりしなかった?とかお父さんとお母さんは?とか。
お母さんはいなかったし、お父さんは優しかったって話した。玩具も買ってくれたし、手伝いするとありがとうって褒めて貰った事とか正直に話した。
病院の先生が施設の人に俺の健康状態は良くて傷もないし、歯磨きもちゃんとしてくれて虫歯もない、ハキハキと答えられるし、行儀もちゃんと教えてる……愛されて育った子なのだろうけど、きっと、金銭的に無理だったのかもと話していたのを聞いた。
金銭的はあったかも知れない。お父さんだってきっと、大人の保護がいる年齢だったかもしれないから。
作業服着て仕事に行っていたから日雇いとかで出来る仕事だったのかも。苦労していたんだろうなって今なら分かる。
だから、俺をもっと面倒見て貰える場所へと預けたかったのかも知れない。
俺がいなかったらお父さんはもっと幸せだったと思う。
いらぬ苦労を背負わなくて良かったはずなんだ。
俺が居なかったら良かった……。
「ユノ!!!」
名前が呼ばれた。その声は雅美さんの声で伏せていた顔を上げた。
そこには心配そうな雅美さんが居て息を切らしていた。
「ユノ、良かった」
雅美さんは俺に近付いてきた。
「雅美……さん」
息が苦しくて名前呼ぶのが精一杯だった。
「ユノ、もう大丈夫だからおいで」
雅美さんは俺をぎゅっと抱き締めてくれた。
「アキラに近くまで車持ってくるように電話するから」
抱き締めたままに電話をしている。俺は雅美さんの顔を見たから安心出来て息苦しさがとけてきた。
「金魚……」
「えっ?」
「金魚……早く水槽入れなきゃ」
「うん、そうだね、早く入れようね」
雅美さんは俺の背中を摩りながら優しく声をかけてくれた。
良かった……迎えにきてくれた。
当たり前だけど、凄くその事が嬉しくて安心出来た。
そして、その後はあまり覚えていなくて、眠くなって目を閉じてしまって……次に目を開けるとベッドに寝ていた。
あれ?と思った。
いま、視界に入る部屋の風景は俺の部屋じゃない。ここって……、
雅美さんの部屋!!!
俺は慌てて起き上がった。
すると、目の前が歪んで直ぐにベッドに伏せてしまった。
ううっ、いつの間に……雅美さんの部屋に。
しかも、ベッドに寝ていたって事は俺、いつどこで寝ちゃったんだよおおお!!!
迷惑かけた!!ちくしょー!!俺のバカあ!!
ベッドで自分の不甲斐なさに悶えていると足音が聞こえてきた。
雅美さん?
でも、何故か寝た振りをしてしまう俺だった。
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