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あらあらと……20話
◆◆◆
足音は2人分。
アキラさんと雅美さん。
「ユノは落ち着くまで預かるよ、じい様が心配してて」
「俺が仕事の間、面倒見てあげられないし、1人で居るとまた不安になるかもだな……うん、ここに居てくれた方が安心する」
2人の会話が聞こえてきた。
じい様心配してるんだ。そうか……悪い事したなあ。楽しんでこいってお小遣いまで貰ったのに。
額に手が当てられた。
「熱高いな」
ふわりと香水の匂いがして、アキラさんが額触っているのだと分かる。
「さっき、注射うって貰ったんだけど……ストレスだって先生言ってた」
元気がない雅美さんの声。心配してくれているんだと伝わる。
「祭り行きたいって言った時、本当は止めようと思ったんだ、小さい頃、祭りの行事の度に熱出してたから、でも、大人になったし、本人が行きたいって言うんならって止めなかった」
「……俺も先に聞いてたら注意してみてた」
「ごめんアキラ……こういうのは本人から聞いた方がいいかな?とか僕が言う事じゃないかな?って思ってて」
この会話で雅美さんが俺が祭りの時に捨てられたって事を知っているんだと分かった。
ああ、だから大丈夫?ってあの時聞いたんだ。
あ、そうだ……雅美さん、いつだったか祭りの時にじい様と来てた。熱出してる俺の面倒を見てくれた事あったな。忘れてた。
じい様がお小遣いくれたりしたのもきっと心配したからだ。
そっか……2人とも優しいなあ。
優しくて泣きなくなる。
「アキラどうする?泊まってく?ユノが心配なら泊まっていきなよ」
「うん、そうする……着替え取ってくるよ、ユノの分も」
部屋を出て行く気配。
2人が出て行った後、シーツを頭からかぶって声を殺して泣いてしまった。
昔を思い出したのか、雅美さんとじい様の優しさが嬉しいのかわからないけど。
凄く凄く暖かくなったんだ。
キュッと胸が締め付けられて、目元が熱い。
シーツで涙を拭いて良いものか悩んだからまだ余裕あるのかな?
「ユノ」
雅美さんの声がして、シーツの上から触れられた。
「おいで、1人で泣いてちゃダメでしょ?」
ビックリした。俺が起きているってバレてたし、泣いてるってもバレてる。
でも、恥ずかしくって顔を上げれない。
すると身体が浮いて、シーツごと雅美さんに抱っこされてしまった。
「よしよし、いい子だね」
子供みたいな扱いに恥ずかしくなったけど、しっかりと雅美さんに抱き着いてしまった。
「思い出しちゃったんだね、大丈夫だよ、ユノはもう1人じゃないでしょ?僕やじい様やアキラに貴一くんもいる」
しっかりと抱き締められた腕は力強くて安心出来た。
「きん……ぎょは?」
鼻を啜りながらやっと声にしたのが金魚だった。ごめんなさいとかじゃなくて、何で金魚だよ?と自分でも突っ込みたい。
「じい様が水槽用意してくれて、元気に泳いでるよ」
「本当?良かった」
「だから、元気だそう?ね?」
雅美さんの声と手のひらは優しくて温かくて涙がいっぱい零れた。
「ごめんなさい」
「何で、謝ってるの?」
「めい……わくかけてばかり……だもん」
「バカだなあ。迷惑じゃないって何度言えばいいのかな?手のかかる子の方が楽しいよ」
よしよしと頭を撫でられた。
俺はしがみついていた雅美さんの身体から離れて雅美さんの顔を見た。
優しく微笑む雅美さん。
凄く安心する。
「ユノは泣くと目がさらに大きくなって可愛くなるね……まだ、子供みたいで可愛いよ」
そういうと雅美さんは俺の瞼に唇で触れた。
「しょっぱい」
クスッと笑う雅美さん。
俺はそのまま雅美さんの胸に顔を埋めて鼓動を聞いた。
ドクンドクンって心臓の音。
心臓の音って安心する。その音を聞いていると眠くなって目を閉じた。
◆◆◆
次に目を開けると朝になっていた。
「ユノ、熱計ろう」
雅美さんが部屋に来た。
「雅美さん……いま、何時?」
「今?8時だよ?はい、計るから大人しくしててね」
「8時?夜の?」
「朝だけど?」
「はっ?朝?」
俺はキョロキョロしてしまった。昨夜……あのまま寝てしまったって事?
「アキラは仕事行ったよ、ユノを心配してた」
「……俺、またアキラさんに……」
「はい!ユノ、ストップ!また、迷惑かけたとか言い出すんでしょ?アキラも迷惑だって思っていないよ、ただ心配しているだけ」
俺の言葉を遮る雅美さん。本当、俺の事分かりすぎだからな。
ピピッと電子音。
「あー、まだ熱あるなあ」
雅美さんは俺の頭を撫でた。
「ご飯食べれる?持ってくるけど」
「俺が行きます」
「ダメ、寝てないと」
「平気です!金魚もみたいし」
「元気になったらいくらでも見れるでしょ?」
「そうだけど……」
「お粥持ってくるからちゃんと寝てる事」
ビシッと言われ、仕方なく横になり待つ事に。
「おー、ユノ、起きたか良かった」
じい様の声がして、ドスドスと中へ入ってきた。
「金魚……」
「金魚は元気ばい、餌もよう食いよる」
「ありがとうじい様……そして、ごめんね」
「まーた謝りよる、まーに謝るなって怒られたっちゃなかとや?」
「そうだけど」
「お前は気を使い過ぎやし、何でも溜めてしまうからな……」
じい様は俺の頭を撫でる。
「祭りの日、よう熱出しよったけんなお前」
撫でる手から優しさが伝わる。
「思い出した……ずっと、忘れた振りしてたけどさ」
「忘れたくもなるやろな」
「うん……でも、昨日は雅美さんが俺を見つけてくれたから」
「昔は昔ばいユノ……そりゃ辛かったし、悔しい思いばいっぱいしたやろうけど、どうあがいても仕方ない事やけん、次に進むしかないとぞ?ユノの周りには優しい人おるけん、昔は昔で良かっちゃなかか?今、目の前にあるものでなんとかなるやろ?」
じい様の言いたい事は分かる。
うん、過去は過去。
容赦なく俺を押しつぶそうとしてくるけど、それでも生きていかなきゃならないんだよな。
時に心がトゲトゲしくなったりするけど、今、目の前に居る人は幸せをくれる。
それでいいんじゃないかって思った。
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