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4話

アキラさんは路肩に車を停めると俺を家へと連れ込む。 「夕方来るから大人しくしとけよ」 アキラさんは頭をポンポンと軽く叩く。 「へ?」 アキラさんはじゃーなと手を振る。 「えっ?えっ?」 チュウとかするんじゃ? ドアに手を掛けるアキラさんをつい、呼び止めた。 「バイト行くつもりだったんだろ?俺からまーに休むって伝える」 あっ、読まれてたのか。 商店街で降ろして貰うつもりだった。 確かにこの手じゃ…… なんか、雅美さんや爺様にも迷惑かけちゃうな。 また怒られるかも知れないけど落ち込む。 「ユノ」 名前を呼ばれてふわりとアキラさんの腕に包まれてびっくり。 だってドアの前に居た。 「だーかーら、そげん顔すんなって」 えっ?俺、どんな顔してんだろ? 「まーに迷惑かけるとか落ち込んだんだろ?」 うっ、鋭いなアキラさん。 「可愛い顔して落ち込むな。エロい事したくなるから」 「チュウ?」 「そうチュウ。」 「して良いですよ」 俺はアキラさんと向かい合うと目を閉じた。 パブロフの犬です俺。 バカの1つ覚え。 アキラさんは、小さな声で、ちくしょー可愛いと呟くと俺の唇にキスをする。 ちゅっ、ちゅっ、って軽いキスをして、 次に唇が重なった時に深いキスに変わった。 くちゅ、…って絡む音。 長いキスだったと思う。 名残惜しそうに唇が離れて、 「行ってきます」 と言われた。 「はい。いってらっしゃい」 返事を返す。 なんか、こんなの久しぶりかもっ。 俺は玄関に裸足のまま降りて、アキラさんの背中を見送った。 何度か振り返り、手を振ってくれるアキラさんに見えなくなるまで手を振った。 でも、誰かを見送った後って寂しくなるのは何故だろう? 足の裏を手で払い、部屋へと戻る。 片付けとか全部やってくれてたから何もする事がない。 あ、でも雅美さんに休むって電話しなきゃ。 アキラさんが伝えてくれるって言っても、こんな大事な事は言葉で伝えなきゃ? 携帯を手にすると、いきなりの着信音に危うく携帯を落としそうになった。 画面に表示された番号と名前は雅美さん。 慌てて出た。 「ユノ、大丈夫?」 俺より先に雅美さんの心配そうな声。 「うん」 「今、アキラに聞いたんだ。あ、何かアキラが、ちゃんと薬飲んで良い子にしてろって」 アキラさんが側に居るんだろうな。 「分かったって伝えて」 「分かったってよアキラ」 雅美さんの声の後にいってきますと遠ざかるアキラさんの声が… 「あの……すみません、バイト」 「いいよ謝らなくても。後から様子見に行くから、ちゃんと休んでるんだよ」 雅美さんの優しい声に凄く申し訳なく思った。 「はい」 それと、しばらく仕事出来ないからお金…どうしようとも考えた。 電話を切って、ソファーにゴロンと転がって、天井を見上げる。 貯金もっとしとけば良かったなあ。 しばらくは節約しなきゃ。 そんな事、考えてウトウトしていた。 なんかウトウトって好き。 お年寄りが縁側でウトウトする気持ち分かるな~ あ、こんなんだからアキラさんとかに中身年寄りって言われるのかも。 でも、本当に気持ちよい… ウトウトから、 ふわふわに変わってさ、なんか揺りかごみたいにふわふわ。 それから頭を誰かに撫で撫でされた。 そんな感触。 あ、夕べのアキラさんの感触を思い出したのかな? 誰かと一緒に眠るなんて初めてかも。 誰かに側に居て貰った記憶はある… 手をぎゅっと握って貰った事も。 …………………………………、寝返りを打とうとして激痛。 いったっ、目を開けて、違和感に気付く。 あれ? なんで? 周りをキョロキョロみる。 寝ている場所がソファーからベッドに変わっている。 えっ?えっ? 俺、ソファーに寝てたよね? あっ、もしかして……………… 夢遊病? それとも痴呆症? やばいかも俺。 ベッドから立ち上がると何か良い匂い。 匂いに釣られてキッチンへ行くと、 「あれ?起きた」 微笑む雅美さんの姿。

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