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5話
「いつ来たんですか?」
「2時間前かな?あ、ユノ!玄関の鍵開けっ放しだったよ。危ないだろ!」
雅美さんは怒っても怖くないと思う。
なんか幼稚園の保父さんみたいで、優しく園児を怒るみたいな、そんな感じ。
「ごめんなさい」
「本当、気をつけないと。男の子だって危ない世の中だし、特にユノは可愛いから」
どっひゃーっ!
雅美さんが、可愛いって…俺の事だよね?
「はい。座って、お昼ご飯」
雅美さんはお昼ご飯を用意しに来てくれたのか~と、何気に時計を見る。
13時…
うそーっ、もうお昼過ぎてんの?
二十歳過ぎたら時間あっという間とか言うけど本当なんだな。
テーブルにつく。
「ユノ、ちょっと熱あるみたいだから食べたらベッドね」
「へ?」
熱?熱なんてあったっけ?
「ソファーで寝てたからさベッドに運ぼうと身体に触ったら熱くてさ、熱計ったら37度7だったよ」
「えっ?えっ?ベッドは雅美さんが」
「そうだよ?自分で歩いたと思った?」
「うん、夢遊病か痴呆症かな?って」
これはマジで思っていた。
雅美さんは数秒黙った後、笑い出した。
「ユノ、まじ?かわいいっ」
笑い続ける雅美さんって、やっぱ可愛い。
つーか、雅美さんって笑い上戸だったの忘れてたよ。
そして、ふわふわな感触は抱っこされた感覚だったのかと分かった。
そして、頭撫で撫ではきっと熱を確かめた時のかな?
「ごめんなさい。なんか迷惑…仕事の事もすみません」
俺は雅美さんに頭を下げる。
「こら、ユノ、顔上げろ」
雅美さんは俺の前に料理を置く。
顔を上げると、
「アキラがね、ユノがそうやって謝って来るから怒れって。迷惑とか思うわけないだろ!って」
雅美さんは笑っている。
アキラさんに怒れって言われたのに、優しく微笑む。
「ユノは普段、良い子過ぎなんだから、こんな時は甘えなさい」
そう言って頭を撫でられた。やっぱり、撫でてたのは雅美さんだ。
手が同じ。
「はい」
頷くと、
「素直でよろしい」
また微笑まれた。
「それからユノ、薬もちゃんと飲みなさい」
ばーんと目の前に置かれる。
俺は薬が嫌い。
マズいし。当たり前だけど…
粉は口の中にしぶとく残るし、錠剤は飲み込むのに勇気がいる。
食事終わりに飲めといわんばかりだよ。
雅美さんは俺の薬嫌いを知っているからね。
飲まなきゃダメなのかな?
食べたら嫌な事待ってるってなんだかなあ?
そのせいか食べるのがノロノロ気味。
「洗濯物干してくるから」
えっ?洗濯物?
雅美さんが洗濯機の方へ歩いていく。
「待って、洗濯物って、洗濯してたんですか!」
「してたのは洗濯機。僕は中に洗剤と洗濯物を入れてボタンを押しただけ」
振り返り真顔で答える雅美さん。
いや、そんな事を聞きたい訳ではない…。
「俺がしますっ」
「だめっ!その手でどうやって干すの?」
あっ…
確かに、片手じゃ難しいかも。
「うぅっ、ごめんなさい」
なんか、いっぱい……
「ユノ、ごめんなさいじゃなくて、ありがとうだよ」
雅美さんに微笑まれて、
「ありがとう…ございます」
と言葉にした。
「良く出来ました。じゃあ、ご飯食べて」
雅美さんはニコッと笑って俺を誉めると洗濯物を干しに行った。
ご飯を食べ始めたけど、薬って絶対に飲まないとダメなのかな?
うーん、考えて薬の袋を見つめる。
あ~、やっぱいいや!
俺は薬の袋から錠剤を出して、ピリッと銀色のフィルムを爪で破り、中身を出した。
手の平にコロコロと転がしながら考えて、
飲まない事にして、ポケットに突っ込んだ。
水だけを飲み干して、グラスを置く。
食べた終えた食器を重ねてキッチンへ運ぼうとした時に、
「ユノ、食器は僕が片付けるから」
雅美さんが戻って来た。
そして、空になったグラスと薬の小さい入れ物を見て、
「ちゃんと飲んだのか、偉いね」
微笑まれて心がチクンッ、
「うん」
「ユノ、薬嫌いだからさ、ちゃんと大人になったんだね」
頭を撫で撫で、
ううっ、ごめんなさい。
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