26 / 133

5話

「いつ来たんですか?」 「2時間前かな?あ、ユノ!玄関の鍵開けっ放しだったよ。危ないだろ!」 雅美さんは怒っても怖くないと思う。 なんか幼稚園の保父さんみたいで、優しく園児を怒るみたいな、そんな感じ。 「ごめんなさい」 「本当、気をつけないと。男の子だって危ない世の中だし、特にユノは可愛いから」 どっひゃーっ! 雅美さんが、可愛いって…俺の事だよね? 「はい。座って、お昼ご飯」 雅美さんはお昼ご飯を用意しに来てくれたのか~と、何気に時計を見る。 13時… うそーっ、もうお昼過ぎてんの? 二十歳過ぎたら時間あっという間とか言うけど本当なんだな。 テーブルにつく。 「ユノ、ちょっと熱あるみたいだから食べたらベッドね」 「へ?」 熱?熱なんてあったっけ? 「ソファーで寝てたからさベッドに運ぼうと身体に触ったら熱くてさ、熱計ったら37度7だったよ」 「えっ?えっ?ベッドは雅美さんが」 「そうだよ?自分で歩いたと思った?」 「うん、夢遊病か痴呆症かな?って」 これはマジで思っていた。 雅美さんは数秒黙った後、笑い出した。 「ユノ、まじ?かわいいっ」 笑い続ける雅美さんって、やっぱ可愛い。 つーか、雅美さんって笑い上戸だったの忘れてたよ。 そして、ふわふわな感触は抱っこされた感覚だったのかと分かった。 そして、頭撫で撫ではきっと熱を確かめた時のかな? 「ごめんなさい。なんか迷惑…仕事の事もすみません」 俺は雅美さんに頭を下げる。 「こら、ユノ、顔上げろ」 雅美さんは俺の前に料理を置く。 顔を上げると、 「アキラがね、ユノがそうやって謝って来るから怒れって。迷惑とか思うわけないだろ!って」 雅美さんは笑っている。 アキラさんに怒れって言われたのに、優しく微笑む。 「ユノは普段、良い子過ぎなんだから、こんな時は甘えなさい」 そう言って頭を撫でられた。やっぱり、撫でてたのは雅美さんだ。 手が同じ。 「はい」 頷くと、 「素直でよろしい」 また微笑まれた。 「それからユノ、薬もちゃんと飲みなさい」 ばーんと目の前に置かれる。 俺は薬が嫌い。 マズいし。当たり前だけど… 粉は口の中にしぶとく残るし、錠剤は飲み込むのに勇気がいる。 食事終わりに飲めといわんばかりだよ。 雅美さんは俺の薬嫌いを知っているからね。 飲まなきゃダメなのかな? 食べたら嫌な事待ってるってなんだかなあ? そのせいか食べるのがノロノロ気味。 「洗濯物干してくるから」 えっ?洗濯物? 雅美さんが洗濯機の方へ歩いていく。 「待って、洗濯物って、洗濯してたんですか!」 「してたのは洗濯機。僕は中に洗剤と洗濯物を入れてボタンを押しただけ」 振り返り真顔で答える雅美さん。 いや、そんな事を聞きたい訳ではない…。 「俺がしますっ」 「だめっ!その手でどうやって干すの?」 あっ… 確かに、片手じゃ難しいかも。 「うぅっ、ごめんなさい」 なんか、いっぱい…… 「ユノ、ごめんなさいじゃなくて、ありがとうだよ」 雅美さんに微笑まれて、 「ありがとう…ございます」 と言葉にした。 「良く出来ました。じゃあ、ご飯食べて」 雅美さんはニコッと笑って俺を誉めると洗濯物を干しに行った。 ご飯を食べ始めたけど、薬って絶対に飲まないとダメなのかな? うーん、考えて薬の袋を見つめる。 あ~、やっぱいいや! 俺は薬の袋から錠剤を出して、ピリッと銀色のフィルムを爪で破り、中身を出した。 手の平にコロコロと転がしながら考えて、 飲まない事にして、ポケットに突っ込んだ。 水だけを飲み干して、グラスを置く。 食べた終えた食器を重ねてキッチンへ運ぼうとした時に、 「ユノ、食器は僕が片付けるから」 雅美さんが戻って来た。 そして、空になったグラスと薬の小さい入れ物を見て、 「ちゃんと飲んだのか、偉いね」 微笑まれて心がチクンッ、 「うん」 「ユノ、薬嫌いだからさ、ちゃんと大人になったんだね」 頭を撫で撫で、 ううっ、ごめんなさい。

ともだちにシェアしよう!