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6話

「じゃあ、ベッドに戻って」 「もう、眠くないです」 「……そんな意味じゃない事くらい分かってるでしょ?ほら」 雅美さんに背中を押された。 「だって、雅美さん働いてるのに」 「それは良いから」 グイグイと押される。 「雅美さん、お店爺ちゃん1人でしょ?ちゃんと寝てますから仕事戻って下さい」 「大丈夫、そんなに忙しくないから」 「でも!」 「そんなに寝たくない?」 ううっ、その通りです。 「おーい。まー」 玄関から… いや、縁側から爺様の声。 2人で縁側に行く。 「何やユノ、寝とらんか」 爺様はズカズカ上がり込む。 まあ、爺様の持ち家だもんね。 「見舞い」 ドサッとテーブルに置かれた袋には、 キムチとか入っている。 キムチはチェさんだな。ありがたや。 明太子とか、魚とか野菜とか、 ぶっちゃけ食材は嬉しい。 「商店街の皆からや、人気あんねユノ」 爺様はニヤニヤ。 「あ、これは松信のおいしゃんから」 と渡されたタッパの中には莓。 「おいしゃん、莓畑持っとっけんな、美味かぞ」 爺様の言う通り甘い匂い。 「へへ、嬉しい」 ありがたや。と頂く。 「そいからユノ、事務の仕事ばせろや」 「事務?」 「事務なら出来るやろ?熱下がったらな。ずっと休んどってもぼーっとして終わるし、給料も入らんと生活できんし」 爺様… 危うく、すみませんと言いそうになって、 「ありがとうございます」 とお礼を言った。 「じゃあ、後はまー頼んだ」 爺様はまた縁側から帰って行った。 わざわざ、それを言いに来たのだろうな爺様。 「アキラがさ」 「えっ?」 雅美さんの方へ顔を向けた。 「アキラが朝に来た時に事務とかさせてやって欲しいって」 アキラさん… 「きっとユノは切り詰めたりしてご飯とか食べるの我慢したり、色々と心配してた」 アキラさんってば、 読まれてる。 「アキラさんにもありがとう言わなきゃ」 「そだね」 ニコニコ笑う雅美さんに頭を撫でられた。 優しい手、 優しい気持ち、 すみませんじゃなくて、ありがとうだなって、実感した。 「俺、ベッドで休みます」 優しい気持ちたくさん貰ったんだから応えなきゃいけない。 熱下げなきゃ。 「うん。」 雅美さんに良い子だね、なんて子供扱いされたけど、 それも何か嬉しくて素直にベッドへと戻れた。 デジカメが目につき、手にしてベッドに横になる。 スライドしながら撮った写真を見た。 夜の海の写真… その後にアキラさんとの2ショット。 アキラさん…… ユノに4年も片思いしてた。 アキラさんの言葉が耳にまだ残っている。 初めて告白してくれた人。 初めての恋人。 恋人かあ………… なんか、ふわふわした言葉だな。 ふわふわした感覚。 いいなあ。 ふわふわしたまま意識を手放す。 ***** ユノ、 誰か名前呼んでる? 目を開けるとアキラさんの顔が視界に。 「アキラさん」 「ただいまユノ」 「おかえり」 アキラさんは俺の頭を撫る。 凄く気持ちいい。 ふわふわして、 アキラさんをまた見つめると、顔が近づいてきてキスされた。 キス、 何回目のキスかなあ? 初めてのキスがアキラさんで良かったって、思う。 ふわふわした気持ちもアキラさんだから…。

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