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2話-9
「ああ、帰りはタクシーで帰るから、君も乗って行くといい」
「そ、そうじゃなくて……」
俺が言うと、男は首を傾げた。
じゃあ何だ、と目が言っていた。
「お詫びさせてください!左手の代わり、俺にやらせてください!」
存外、大きめな声は廊下に響いてしまい、そばを歩いていた看護師から睨まれてしまう。
「……とりあえず、タクシーに乗ろうか」
きっと、冗談にとられたのだろう。
男は取り合わず、タクシー乗り場に歩き出した。
タクシーで俺と男は並んで座る。
まだ明るかったが、時間は夜に差し掛かっていた。
「君の家はどこ」
「あ……公園の近くなんで、平気です」
なにが平気なのかよくわらかないが、俺が答えると男は頷いた。
よく考えれば、名前もしらない。
表札通りの名前なら、この人は間宮と言うのだろう。
あの家で小説を書いていると言った。
でもどんなジャンルなのか、よくわからなかった。
それなのによく、俺は左手の代わりになるだなんて言えたものだ。
それでも、なんとか罪滅ぼしがしたかった。
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