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3話 ここにいて
「叶くん」
淡い夢から目覚めると、間宮さんが顔を覗き込んでいた。
ずいぶん懐かしい記憶だった。
年より若く見られる間宮さんだが、あの頃と比べると、当然今の間宮さんは老けている。
俺も、老いてしまっただろう。
「おはよう、叶くん」
まだ寝ぼけた俺に、間宮さんが言った。
目を細めた間宮さんの目尻に、月日の流れたことを物語る小さなしわが見える。
それさえ今は、愛おしい気分だ。
「おはようございます、間宮さん」
「水を持ってきたけど」
間宮さんは水の入ったペットボトルを掲げて見せる。
そう言えば、喉が乾いていた。
「ありがとうございます」
起き上がって受け取ろうとすると、肩を軽く押され、簡単にベッドに逆戻りする。
熱は引いたようだが、身体の自由はよくきかない。
「口移しで飲ませてあげようか」
間宮さんは片手で器用にペットボトル蓋を開ける。
いたずらを企てる子供のように、楽しそうだこと。
「間宮さん、あなたに風邪をうつしたりなんかしたら、元も子もないでしょう」
俺は呆れてため息混じりに言うが、間宮さんは気にしないらしい。
水を一口口に含み、俺の顔に手を添える。
「間宮さん、ほんとに、」
力の上手く入らない手で間宮さんの顔を押し退けてみる。
しかし、間宮さんの行動を遮るにはいたらない。
顔をしっかり押さえつけられ、顔が近付く。
「ま……」
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