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3話-12
間宮さんの手が頭を撫でた。
母がするほど繊細ではなく、父がするほど力強くもない。
「もう寝るかい」
間宮さんの声が耳に響くのが心地よい。
ただの言葉さえ、今の俺には子守唄のように眠りに誘う。
間宮さんの声は、初めて出会った時から俺の身体に染み込み、麻酔のように身体を鈍らせる。
いや、麻薬のようだ、と言った方が正しいのかもしれない。
「ゆっくりおやすみ」
間宮さんが俺の身体に毛布と掛け布団をかけた。
軽くて暖かいそれに身体を包まれると、眠気は一気に頂点に達する。
目を閉じた俺を確認したのか、間宮さんが離れる気配がした。
ああ、いってしまうんだ。
風邪が移ってしまうし、そうだ、間宮さんは他の部屋にいたほうがいい。
それなのに。
「……」
「珍しいね」
追いかけるように伸ばした手は、間宮さんの着流しの袖を掴んだ。
間宮さん。
こんな俺は、ダメですか。
「君が甘えるのは、珍しい」
目を開く程の力もない。
口が勝手に動くのも、もう、熱のせいにしてしまおう。
「間宮さん……」
「うん」
「……ここにいて」
「うん」
意識はすぐに、落ちた。
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