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4話 ここにして
初めて代筆をしたあの日以来、間宮さんの代筆をすることも、間宮さんに身体を触られることもなかった。
部屋を掃除したり、弁当の用意をしたり、そんな雑用が主立った仕事になる。
もともとそういう約束だったのだけれど。
朝10時に間宮さんの家に来て、2人でのそのそ弁当を食べ、間宮さんはあの机の前に座り、俺は洗濯や掃除に動き回った。
間宮さんから、ここにきてとお呼びが掛かることはない。
間宮さんから呼ばれない限り、俺は、あの部屋に入るのさえためらった。
原稿が進んでいるのかどうなのか、もはや原稿そのものに触れることもなかった。
やはり、代筆中に興奮してしまったのでは仕事にならないから。
だから、もう原稿に触れさせてもらうこともないんだろう。
入れない間宮さんの書斎の前を通り過ぎるたび、机に向かう間宮さんの背中に目が行く。
間宮さんがこちらを向くことはなかった。
カラカラカラ。
「こんにちは」
「こんにちは」
鍵は開きっぱなしの引き戸が開いて、その先には松本さんが立っていた。
松本さんは、間宮さんがデビューした時から担当しているそうだ。
デビューしてからこの家に移り住んだ間宮さん。
家事も身の回りのことも放っておきがちで、当初は足繁く通っていたのだという。
一時期噂になっていた、この家に男を囲っているスーツの男、というのは松本さんの事だったのだろう。
「こんにちは」
「こ、んにちは……」
松本さんの後ろからさらに人が現れる。
俺よりも年上、間宮さんと同年代か少し下くらいの男性だった。
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