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4話-3

 ノックをしようとして、手が止まる。 「だから、それはダメだと言ったでしょう、間宮さん」  松本さんの声が響く。  間宮さんもなにやら言っているようだが、声量が小さくて耳をそばだてても聞こえなかった。 「……間宮さん、あなた自分が何を書いてるのか、わかっているんでしょう?」  松本さんの呆れたような声。  代筆の事についてなのはおそらく間違いないとして、もしかして俺が書いたのがばれたのだろうか? 「そんな、子供みたいなわがままを……」  間宮さんの声が聞きたくて扉に寄りかかる。  間宮さんは、俺のことを、どう思っているのだろう。  がちゃ。 「わ、あっっつ」  ばしゃっ、ぱりん、ガシャガシャ。  扉が急に開いて、お茶を乗せていたお盆がひっくり返る。  湯のみが床に叩きつけられ、割れてしまった。  それよりなにより、お茶が胸にかかって熱い。 「え、なに?」  松本さんがこちらを向いた時には、俺は腕を引っ張られていた。  村木さんの腕が俺の腕を掴み、真っ直ぐ風呂場へ向かう。  シャワーから出された冷水を服の上からかけられた。 「悪い、いるのわかってて扉を開けてしまった」  村木さんが頭を下げるのが申し訳ない。 「いえ、俺こそ立ち聞きなんて……」  なんとも言えなくて、俺は黙ってしまう。  一度聞こえてしまった話の断片が気になって頭から離れなかった。  でも、その内容を村木さんに聞くなんて不躾で出来なかった。

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