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4話-10
「僕のいるときは鍵があいてるから、君ならいつでも来てくれていいんだよ」
間宮さんはそう言うと、おいで、と言って中に入った。
喜んでついて行きたいのに、足は敷居の前で固まる。
そんな俺に気付いた間宮さんは振り返り、俺を見つめた。
「……俺に出来ることはないです。代筆だって、間宮さんの身の回りのお手伝いだって、村木さんがするから、俺に、出来ることはないです」
だからここには、入れない。
「僕は、君がいい」
間宮さんが呟いた。
には音のしない静かな空間だったから、その小さな呟きは問題なく俺に届く。
まるで、子供のよう。
理由もなく、それでも、俺を選んでくれる。
「朝食は食べたかい」
「あ、いえ」
「君の分もあるから、一緒に食べよう」
「はい」
早くおいで、と促され、俺はようやく家に入った。
玄関には間宮さんの履き物しかなく、松本さんも村木さんもまだ来ていないようだった。
そもそも担当の松本さんは他にも作者を抱えていて、そう頻繁に来るものでもない。
村木さんが間宮さんの執筆を手伝うのなら、そろそろ来る頃合いだ。
俺を見て、どんな顔をするだろう。
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