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4話-12

 カラカラカラ。 「こんにちは、村木です。失礼します」  その声に俺は頭が冷えていくのを感じた。  村木さんになんと言われるだろうか。  どんな目で見られるのだろうか。 「こんにちは、お食事中でしたか。ああ、叶くんもいたんですね」  俺は入り口に背中を向けていたから、村木さんの表情が見えなかった。  振り返って挨拶をしようとする前に、肩に手が触れる。 「昨日は悪かったね、ここ、平気?」  村木さんの手が胸を撫でた。  ゾッとするほど嫌な気分になるのに、身体の奥で熱が芽生える。  昨日、身体を触られた事が頭を過ぎった。 「大丈夫で、す、俺こそ、すみません」  よくわからないまま、謝り返していた。  言葉が詰まってしまったが、間宮さんに変に思われていないだろうか。  胸がチクチクと痛んだ。  昨日のあの事が、罪悪感となって俺を責め立てる。 「間宮先生、腕は大丈夫でしたか」 「ああ、少し傷口が押されただけで、なにも問題なかったよ」 「あの、昨日はすみませんでした」  俺を助けようとして、無理して腕をついてしまった。  悪化しないでくれてよかったと、本当に心から思う。 「謝らないで。僕は君が怪我をしなくてよかったと思っているんだ」  間宮さんはそう言ってくれたけど、俺はますます罪悪感が募っていった。

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