66 / 89
5話 ここでして
「間宮さんは、悪い大人だなあ」
目が覚めると俺はうつ伏せに寝ていて、顔だけを左横に向けていた。
その視線の先には間宮さんがいた。
もう四十近くになるのに、薄く唇を開けた寝顔はどこかあどけない。
純真だった高校生の俺を誑かした、いけない人だ。
俺はこんなにも、間宮さんに夢中になってしまった。
不意に手を伸ばして頬に触れる。
俺が一番良く知る大人も、俺が唯一知る男も、どちらとも間宮さんだった。
敬慕してやまない相手だったが、今はどこか、愛しいとか可愛らしい人に思えた。
「君は、いやらしい子だね」
やおらに口を開いた間宮さんにどきりとする。
起きていたらしい。
それよりも、いやらしい子って。
「もしも俺がいやらしい子だったんなら、間宮さんがそうさせたんだと思いますよ」
意地悪く言い返すと、間宮さんは頬に当てた俺の手に手を重ね、じっと俺を見つめた。
間宮さんに見つめられると、それだけで心臓が早くなって、体温が上がり、恥ずかしくて目を背けたくなる。
やっぱり、俺をこんなにしたのは間宮さんだ。
「そうだね、時々そのことは申し訳なく感じるよ」
「そんな、ただの、冗談ですよ」
あまりにしおらしいからそう言うと、間宮さんは微笑むだけだった。
ともだちにシェアしよう!