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6話 嫉妬して
「熱でもあるんじゃないですか」
なにかがぽろっと溢れてしまいそうなのを堪えて、誤魔化すように間宮さんの額に手を当てる。
自分の額と比べて見てもよくわからなかったが、どうも自分の方が熱い気がした。
「もし熱があると言うのなら」
間宮さんの手が俺の前髪を払い、目尻を親指が触れた。
せっかく堪えたのに、涙がじわりと滲ん出る。
「君と出会った時から僕は熱に浮かされている」
ああ、なんでそんなことを愛おしそうに言うんだろう。
涙腺が緩くなっていて、世界がうるうると輝き出す。
涙よりも先に鼻水が出てきたから、それを啜りながら誤魔化した。
間宮さんは、好きだとか、愛してるだとか、直接言ってくれた事はない。
好意は示してくれるけど、わかりやすい言葉、誰もが知っている言葉では言ってはくれなかった。
だから、それらしい言葉を言われると心の琴線に触れて感情が昂ぶり、つい涙もろくなってしまった。
「叶くん、顔が赤いね。また熱が出てきたのかな」
「ああ、そうですね、きっとそうですよ」
俺は間宮さんの手を優しく押し退けて、立ち上がる。
立ちくらみで少しふらついたが、体調はほとんど戻っていた。
「風呂に、入ってきます」
「長湯してのぼせないようにね」
間宮さんに見送られながら部屋を後にする。
そこまで汗はかいていなかったけれど、今すぐ頭を冷やしたい気分だった。
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