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6話-5
「ところで、叶くん」
間宮さんが俺に手を伸ばしてきたから、反射的に顔を向ける。
頬の輪郭に手を添えて、なにかを確かめるように髪を指が触れる。
それから頬を、顎を、指がたどり、最後に辿り着いたのは唇だった。
下唇を、つつーーと指の腹が撫でる。
唐突な触れ合いに戸惑っていると、間宮さんと目が合う。
ほとんど変化は見て取れないけれど、どこか不機嫌な雰囲気を醸す、その視線にあてられた。
カッと、俺の中で炎がともる。
「君は嫉妬をしたことがあるかな」
間宮さんの問いに答えようと口を開くと、指が唇の形を歪ませてなぞった。
俺の返事は待っていないようで、ただされるがまま見守るしかない。
「僕は案外嫉妬深いことを、君は知っているだろう」
間宮さんの方へ引き寄せられ、顔が付きそうなほど近づく。
否、来ると期待したキスはいつまでも来ない。
寸前で留まった距離に、ごくりと息を呑む。
「君にもそれを、わかってもらわないとね」
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