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6話-6
フローリングの床に正座をして、腕は後ろで組んだ。
縛られているわけでもないし、スウェットを穿いているから足が痛むわけでもない。
ただ、目の前に立ち、見下ろす間宮さんの視線にゾクゾクとした。
いつから俺は、こんなマゾヒストになったのだろう。
しかし、少なくとも間宮さんから与えられる場合に限る。
「だいぶ髪が伸びたね。切った方がいいね」
まずは髪だった。
間宮さんの繊細な指が、俺の適当に乾かしたボサボサの髪を梳いた。
前髪を搔き上げるようにして指を通していく。
時折地肌に触れて、軽く髪を掴み、根元に近いところにキスを落とす。
神聖な儀式のようだった。
「それとももうしばらく伸ばしてみようか。伸ばした髪を結んで、スカートでも穿いて、デートでもしようか」
「絶対似合いません……」
言ってから気付く。
どうやら今の俺に発言は認められていないらしい。
間宮さんに答えた俺をじっと見て、俺が黙るまで間宮さんの手は動きを止めた。
沈黙の瞬間が怖い。
大声で怒鳴られて怒られた方がまだわかりやすい。
わかりやすい形で怒っていないからこそ、間宮さんは怒っていた。
「君は人と触れ合うことに関して、無頓着なところがある」
今度は唇。
間宮さんの指が唇を踏んだ。
されるがまま受け入れていると、視界が陰る。
目前には、間宮さんの顔。
「特にキスなんて、もってのほかだ」
間宮さんが触れようとして、また押し止まる。
今度こそ唇が重ねられると期待して開いた口が虚しい。
「キスしてほしいかい」
焦らすいけずな間宮さんに、俺は舌を伸ばして間宮さんの唇を舐めた。
欲しくてたまらない。
全力のアピールに、間宮さんは目を細めて微笑んだ。
舌先から、絡まってキスされる。
降り注ぐ熱に、めまいを起こしそう。
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