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第2話
朝食は和食を選んだ。
土鍋で炊いたご飯に、茄子と豆腐の赤味噌の味噌汁、焼き鮭、キュウリと茄子のぬか漬け、出し巻き卵。デザートは昨日スーパーで買ってきた梨だ。
和食にしたのは、つくるのに手間がかかるからだ。食べるのに時間がかかるからだ。その間、もしかして会話が一切、ないとしても、一緒にいられる時間を、俺は惜しんでしまった。
「ありがとう」
朝食の用意が済んだダイニングテーブルに、奴が腰掛けて言った。
「別に」
俺は奴の顔をまともに見られず、斜め下を向いて、奴の正面に座った。
互いに何と声をかけたものかわからず、緊迫した空気が漂う。
それを誤魔化すように、互いに箸を握り、言った。
「「いただきます」」
何があろうと挨拶だけはちゃんとすること。俺と奴が三年の間に築き上げた約束事のひとつだ。
「……私のために用意してくれて、嬉しい。きみは優しい子だ」
七歳も上の奴にそう言われると、俺はいつも素直に受け取れない。
「子供扱いするなよ。当番なんだから当然だろ」
「覚えていてくれたことが、私は嬉しい」
いちいち、口に出して言われるたびに、俺は弱くなる。奴の兄に言われた三つの条件が脳裏をかすめ、俺は首をひと振りして、味を確かめるために味噌汁を口に含んだ。
昨夜の説得は道半ばだったが、こうして戻ってきてみると、事は俺の望む方向に傾いている気がした。もうひと押しすれば、奴も流れてくれるだろうか。
愛というのは、大きい方が弱くなるのだ。
俺が奴に愛していると言わない理由は、そこにある。
「しょうがないだろ。あんたそういうところ、融通が利かねえんだから」
「それでも」
それでも、きっと奴は喜ぶんだろう。
俺が、最後の朝に帰ってきたことを。
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