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第8話(*)

 貪られるだけ貪られて、奥に出されて、体位を変えられると、今度は後ろから抱きしめられた。腰を打ち付けられて、喉が枯れるほど喘いだ。でも、まだ終わりはこない。まるで獣が食事を摂るかのごとく、互いを求め合い、滲んだ視界で振り返ると、奴もまた慟哭していた。 「きみだけだ、きみだけだから……っ」  脚を腰に絡め、首に縋り付く俺に、奴はずっとそう言っては、顔中にキスを降らせた。 「きみを、愛している……っ」  何度となく出され、結合部は既に白く泡を吹いている。ぐずぐずに溶けるようなセックスに終わりはない気がした。奴が腰を進めるたびに、俺は脚を開いた。どこまでも求め合うままにかたく抱き合った。終わらなければいいと思う。この交合が、永遠に続けばいいけれど。  そんなことは絶対にない、と目を閉じて言い聞かせる。いつか終わりはくるものだ。この関係も、この感情も、全部なかったことにはできないけれど、色褪せる前に名残惜しげに引き裂かれたとしても、きっと痛みが終わる時は、くるはずだと祈った──。 *  奴を無事に空港へと送り出して、飛行機に乗ったことを確かに確認した俺は、荷物の整理をはじめた。 『ご苦労だった。引き続き、よろしく頼む』  奴の兄に報告すると、わずかに笑んだ声でそう言われた。  この家を出ることも考えたが、奴の兄に見事に止められた。曰く、「今度の計画は完璧でなければならない」とのことで、三年間は一時たりとも日本に返さぬつもりで仕事を振るから、「安心して住めばいい」とのことだった。おそらく、目の届かないところへ行かれるよりは、手元に置いて監視した方がいいとの判断だろう。抵抗する余力も残っていないほど消耗した俺は、奴の気配の残る家をハウスキーピングしながら、今までと同じように仕事に行き、生きていかねばならなかった。  俺は、人生をやり直さねばならなかった。  空虚で飯も喉を通らなかった。  奴がアメリカへ行ったあと、真っ先に連絡先を消去した。音沙汰ひとつないことに気を揉んで溜め息をつくばかりの毎日が嫌で、スマートフォンも解約し、新規に契約し直した。  それからは、奴宛のダイレクトメールがくるたびに送り主に連絡して、必要なものは奴の兄の決済を仰いで、アメリカへ転送するよう取り計らうぐらいの仕事しかなかった。  俺の荷物はスーツケースひとつに入れて、いつでも家を出ていけるようにした。そうでもしないと、自分を保てそうになかった。

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