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第9話
クリスマスが近くなると、街は嫌でも煌びやかになる。
俺はまだ傷心の中にいた。
「……ただいま」
いつもどおり、定時で上がって、いつもどおり、誰もいない奴の家に帰ってくる。中に入ると、奴の残り香がするようで、俺はいつも一度だけだと自分を戒めて深呼吸する。
(おかえり)
そう言われるような気がして、リビングにあった奴のお気に入りのカウチを、横に倒したままにしてある。こうして座れなくしておけば、誰かがきた時は不便だが、誰かがいないことを意識しなくて済む。俺なりの工夫の成果だった。
とりあえずシャワーを浴びて、適当につくり置きした惣菜の中から好きなものをつまみながら、軽く飯を食う。ワインやビールの類が賞味期限ギリギリになっていたが、俺は絶対にアルコールに手を伸ばそうとはしなかった。酔ったら何をし出すか、自分でもわからないからだ。
だが、キッチンへいけば奴が触った食器が並んでいる。シャワーを浴びれば奴が使ったタオルがある。歯ブラシや、使いかけの歯磨き粉までは、持っていかなかったらしい。奴の使ったガウン、スラックス、シャツ、ネクタイ、奴と一緒に眠ったベッド。どこを向いても奴の想い出以外のものが出てこない場所で、俺はどうやって奴のことを忘れたらいいのか、もうわからなくなっていた。
「──ぅ……っ」
思わず、涙が出てくる。
最近、泣き上戸になったと可笑しくなってくる。以前はこんなこと、何でもなかったのに、人恋しい季節になったせいか、何にでもすぐに反応してしまうのだ。
だが、いつまでも感傷に浸ってばかりはいられないと、俺は帰る時に見るのを忘れた、宅配ボックスへと脚を向けた。
そこには、荷物がひとつ、アメリカから届いていた。
「……」
懐かしい筆跡をなぞるだけで、ぬくもりが伝わってきそうだった。俺はいつものようにその荷物を開ける前に、奴の兄に連絡を入れようとした。
が、はたと内容物の欄を見て、スマートフォンを探る手を止めた。
『toys』
と書かれた文字に、何だろうと思う。
ぼうっと眺めながら、これは奴が自分用に送った何かプライベートなものだろうか? と一瞬、不審に思った。判断する材料が欲しくて、いつもはほとんど気にせず放っておいている宛先を、その時はちらりと一瞬、見た。
心臓が竦んだ。
俺の名前が書かれていたからだ。
どうしてバレたのか、開けていいものなのか、そもそも、どうして今になって自分宛にこんな荷物が送られてくるのか、次々と湧く疑問に、俺は一日半ほど仕事が手につかなかった。
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