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第16話

 ちふゆ?、と語尾を上げた呼び方で名を(かたど)られ、ちふゆはじりじりと膝で後退した。  しかし、青藍はそれをゆるさず、剣道で培ったのかなんなのかよくわからない身のこなしであっという間にちふゆを押し倒してきた。  どさり、と背中をマットレスに沈めたちふゆのシャツを、躊躇もなくたくしあげる、  下はすでに脱がされていたので、胸まで()くられたちふゆはほとんど全裸の恰好であった。    じ……と下腹部に眼差しを注がれて、咄嗟に両手で股間を隠す。  青藍とはもう何度も『そういうコト』をしている関係なのだからいまさらではあったが、無毛のそこをマジマジと見られることにはやはり羞恥を覚えた。 「ちょ、見んなよバカ」  真っ赤な顔で毒づいたけれど、青藍の視線はゆるまない。  ちふゆに馬乗りになった男は、色香を孕んだ目を軽く細めて、ふぅ、とため息を零した。 「ちーはさ、わかってないよね」 「な、なんだよ。わかったって! わかった! オレが悪かったよバカ! もう酒は飲まなきゃいいんだろっ」  完全なる逆ギレではあったがちふゆはそう叫び、体を(よじ)って青藍の下から逃げ出そうとした。  それを止めるかのように青藍の手がちふゆの両の手首を捉え、下腹部から引きはがそうとする。  ちふゆは抗ったけれど、ちからの差は如何(いかん)ともし難く、青藍は悠々とちふゆの手をマットレスの上に縫い付けて、遮るもののなくなった陰部を見下ろしてきた。 「そのことじゃないってば、ちー。いやまぁお互いにアルコールはほどほどにしておくとしてさ、俺が言ってんのはおまえのパイパンのこと」 「なっ……!」  パイパン、と直截的な単語を告げられてちふゆは真っ赤になった。 「け、毛がなくて悪ぃかよっ」 「だから、悪くないってば」  思いのほか真剣な目つきでソコを見つめられて、こくりと喉が鳴った。  さっきまでお兄ちゃんモードだったくせに、いつの間にか完全な雄の顔になっている。 「ちーは俺に、好みのタイプ選べとか植毛するとか色々言ってたけどさ、おまえは全然わかってない。俺がいつもどれだけ、ちふゆのパイパンに興奮してるのか」  ちふゆに強い視線を注ぎながら、青藍が上体を屈めてきた。  ちふゆの手首を戒めたまま、伸ばした舌で無毛のデルタゾーンを舐めてくる。 「うわっ、ちょ、や、やめろよっ」 「俺はさ、ちふゆ。おまえのこの小学生みたいなおちんちんが好きだよ」 「なっ……てめっ、やっぱバカにしてんだろ、あ、ひゃんっ」  怒鳴っている途中で性器の根本を吸われて、おかしな悲鳴が零れた。 「ツルツルでもボーボーでももじゃもじゃでもなんでもいいけどさ、でもやっぱり俺はちふゆはパイパンなのが一番可愛いと思う」 「ば、バカっ、そこで喋んなって……あっ、ああっ」 「ツルツルだから舐め心地最高だし、なにより可愛いし」 「あっ、ちょ、あ、あ、ああっ」  陰部を舐めていた青藍が唇を滑らせて、半勃ちになっていた性器をパクっと咥えた。  と思ったら、本気の口淫を仕掛けてきて、ちふゆの腰が浮き上がる。         気づけば両手は解放されていた。  けれど抵抗するどころかシーツを掴むことしかできずに、ちふゆは喘ぎながらビクビクと体を跳ねさせた。   「あっ、ダメっ、出るっ、あっ、あぅっ」 「出し(らひ)ていいよ」  ちゅばちゅばと先端を吸われ、孔を舌先で穿(ほじ)られた。  青藍に抱かれるようになって、ちふゆは敏感になったと思う。  彼と出会うまでは、自慰も碌にしないような、ただふつうの体だったのに。  いまは青藍に少し責められただけで、そこはすぐにパンパンに膨れて、こらえようもなく快楽の証を吐き出そうとするのだ。  しかしいくら童貞とはいえ、ちふゆも男である。早漏は恥ずかしい。そう思う気持ちはあるのに、青藍は一切の容赦をしてくれず……。 「ひっ、あっ、だ、ダメっ、イくっ、あっ、ああああっ!」  ちふゆは思いきり、男の口腔内に白濁を放ってしまった。  青藍が躊躇もなくそれを飲み干して……けれど唇は陰茎から離れない。 「ちょ、や、やだっ、離せっ、イった、いまイったからっ」  男の髪を掴んで引きはがそうとするが、果てたばかりのそこを強引に愛撫され、更なる快感を引き出されて、気持ちいいのかつらいのかよくわからなくなった。   「あ~っ、は、離せって! あっ、あぅっ」  啜り泣きを漏らしたちふゆを見て、青藍がようやく口での愛撫をやめてくれた。  と、ホッとする暇もなく、後孔にぬるりと精油をまとった指が入り込み、ちふゆの弱い場所をぬちゅぬちゅと刺激してくる。  おまけに唾液と淫液でびしょびしょになっている性器までも空いている方の手で弄られて、ちふゆはシーツを蹴って悶えた。 「あっ、もう、やだっ、あっ、あっ、イくっ、イくぅっ! あっ、ああああっ」  悲鳴をあげたちふゆの体が痙攣した。  追い詰められた先端から、ぷしゃあ、と放たれたのは透明な液体だった。  俗に言う潮吹きというやつだ。  おもらしのように断続的に潮が吹きあがり、ちふゆは去りきらない快楽に全身を震わせながら、恥ずかしさに顔を覆った。 「ば、バカ、バカ青藍、やめろって言ってんのに……あっ」  青藍への文句の言葉の途中で、声が上ずった。  後孔の(すぼ)まりに、青藍の牡が押し当てられたからだった。 「ちー、欲しいって言ってみて」  飢えたような表情のまま、けれどそんなふうにちふゆのおねだりを欲する男を、ちふゆは指の隙間から見上げて……自分から足を開き、腰を揺らめかせて、誘った。 「挿れたきゃ挿れろよ、バカ青藍」     ちふゆの挑発に、青藍が吐息のように笑って、ちふゆの体の中心に熱く太い杭をゆっくりと埋めてゆく。  ちふゆははふっと息を吐いて、男へ向かって両手を差し伸べた。  心得た青藍が上体を倒してくれる。  近づいた彼の背へと、ちふゆはぎゅっとしがみついた。  媚肉を青藍の欲望が埋めている。その存在感にちふゆの体中が喜んで、うねうねとまとわりついてゆくのがわかった。  ちふゆの耳元を、青藍の熱い呼気が揺らした。   「ちー。ちふゆ。好きだよ。ボーボーでもツルツルでも、俺はおまえが好きだよ、ちふゆ」  笑い声が、そう囁いて。  青藍が淫靡に腰を使い始めた。  深い場所をぐりぐりと刺激され、ちふゆの喉から甘い喘ぎが飛び出す。 「お、おれも、すきっ」  揺さぶられながら、ちふゆは答えた。 「す、すきだからっ、キスしろっ」  ぐぽっ、ぬちゅっ、と繋がった部分から水音が立ち上る。それに負けじとちふゆは男にしがみついたまま口づけを乞うた。  青藍の眉が困ったように寄せられて、ちゅ、と目元にキスを落としてきた。 「さっきちーの飲んじゃったから、キスはまた後で」 「あっ、あっ、ば、バカぁ」  青藍の腰使いに翻弄されながらも、ちふゆは男の髪をちからの入らない手で掴んで。 「ちゅーしろってばぁ、な、なつみぃ、ちゅー、ちゅーして」  譫言(うわごと)めいた口調で、ちふゆは無意識に青藍の本当の名前を呼んでしまった。  淫花廓(ここ)では本来口にしてはいけない、ちふゆだけが呼べる名前だった。 「あっ、あっ、なつ、みぃ……」  青藍の両頬を、てのひらで包んで。  ちふゆは口づけをねだった。  青藍の目が一度丸くなり、それから彼は、犬のように目尻を下げて微笑して。 「ほんと、ちーには敵わないな」  と、呟きを落として。  ちふゆを貫きながら、待ち望んだキスをくれた。  深く深く合わさった唇に蕩かされたちふゆは、絶頂にポーンと放り投げられて、意識を遠く飛ばした。  ここ数日、自分がいったいなにに怒っていたのかすらも曖昧になり、青藍の腕の中で彼のぬくもりに包まれながら、眠りについたちふゆであった。    

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