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【色付きリップの疑惑 1】
「ふんふふふーんっ
よし、お洗濯物を干そうーっ!」
仕事の日はつい面倒で乾燥まで済ませるが、この日は天気もよく外に干すことにした紅葉。
オフなので凪が仕事とジムへ行っている間にベースとヴァイオリンの練習をしながら家事を担っていた。
「もう一回洗おうかなぁー。
ふふっ、凪くんのシャツーっ!!」
大好きな恋人のシャツ(洗濯前)に顔を埋める紅葉…
「あ、いけない…つい…!
えっと…他に洗うのあったかな?」
洗濯機に凪の服を入れようとした時、シャツの背中の部分に口紅の痕らしき物を見つけて固まる。
「誰ーっ?!
まさか、う、浮気…っ?!」
凪に限って浮気はないと信じているが、こんな痕を残す犯人に紅葉は珍しく苛立ち、ジムから帰宅した凪を問い詰める。
「これは何ですか?」
「ただいま…。
何って俺のシャツだけど?
…いきなり何?」
「ここに口紅の痕が付いてるのっ!!」
「どれ…?」
そんなわけないと凪は紅葉からシャツを受け取って確認する。
グレーのシャツの背中側、肩甲骨の辺りにうっすらと色付いた口紅の痕とその唇の大きさには見覚えがあった。
「お前だろ?」
他に心当たりはないので自信を持ってそう告げる凪。
「僕は口紅なんて付けないよっ!!」
自分ではないとまだ怒っている様子の紅葉…
「一昨日くらいからリップつけてなかった?
あれ、色付きのやつだったじゃん。」
「えっ?!そんなわけ…」
「紅葉以外いないって。
…じゃあ実験してみる?
リップ持ってきてよ。」
先日、乾燥が気になる季節を前に買ったリップクリームを持ってきて凪に手渡す。
"イチゴの香り"に惹かれて買ったのだろうそのリップには小さな字で"ほんのり色付く"とも書かれていた。
「ほら見ろー!
なんか唇ピンクだと思ったんだよな。
間違えて買ったの?」
「えー…?!
だって塗った時はフツーだったよ…?」
「…時間差で色が出てくるとか?
ほら、貸して。」
凪が紅葉の唇にリップを塗り、しばらくしてから自分の背中を指差した。
「ギュってして?」
「はい、喜んでっ!」
凪に言われた通り、反射的に抱き付く紅葉。
広くて逞しい彼の背中も大好きで無意識によくくっついているのだ。
そして凪の匂いを嗅ぐのも紅葉の癖。
凪は着ていたシャツを脱いで紅葉に見せる。
すると…先ほどのシャツとほぼ同じ位置に唇の痕がついていた。
「シャツの色も似てるし、シャツについた色も大体同じ、だよな?
犯人お前…。」
「ごめんなさい…。」
凪は少々呆れて苦笑していた。
「どーせまたじいさんと一昔前の昼ドラの再放送かなんか見て影響されたんだろ?」
「はい…。」
午後、時間が空いてるといつも隣の池波宅へ行き、おやつ片手にTVを眺めて寛いでいる紅葉…
凪の予測は大体合っていたようだ。
「恋人に浮気を疑われるなんて心外だな。」
「ごめんなさい…っ。
凪くん浮気しないと思うけど、誰か女の人が勝手に抱き付いたのかと思って…」
「へぇ…。
疑った犯人が自分だったなんてね(笑)
じゃあ…紅葉くん。
お詫びって分かる?
…何して貰おうかな?」
そう言って笑う凪は楽しそうだった。
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