6 / 204
【紅葉19才の誕生日 2】
カレーのトレイに自分でご飯をよそい、ルーはメンバーにかけてもらうスタイルだ。
木陰の下に用意されたテーブルで食べる。
もちろん自分のチームのメンバーを囲んで。
自分たちのチームのカレーを食べたら、他のチームのカレーも試食OK!ただし、なくなり次第終了だ。
紅葉は全種類食べる気らしい。
もちろん凪のもとへと向かう。
「凪くんのカレーくださいっ!」
「けっこう辛いよ?」
辛口好きの子も多くて、中辛よりは辛めに仕上げたのだ。
「絶対美味しいから少し食べたい…。
そんなに辛いの?じゃあ…一口分…」
「紅葉くん、凪くんにあーんしてもらったら?」
ファンの子に言われてニコニコ頷く紅葉と笑う凪。
「仕方ない…
誕生日だから特別ね?」
凪が自分の皿から一口カレーをスプーンで掬って紅葉の口に運んだ。
キャー!と黄色い声がとぶ。
「んー、美味しっ!あ、辛い…!ん、辛いよ…
お水…!」
コップに入った凪の水までもらい、飲み干す。
「これは…クセになるね!」
「家じゃないんだけど(笑)
ほら、紅葉のカレーみんな待ってるよ?」
席に列が出来ていて慌てて戻る紅葉。
みんなも笑いながらその様子を見守った。
そのあとは各テーブルで記念写真を撮り、光輝がケーキを運んできてみんなで紅葉の誕生日を祝った。
さすがにケーキはファン全員には行き渡らないのであとでメンバーとスタッフで食べることにし、みんなで後片付けをして解散となった。
少し休憩し、光輝と紅葉は慌ただしくもこれからすぐ隣でさつまいも掘りだ。
仕事というか、教育関連の仕事の縁で知り合った児童養護施設の子供たちとスタッフを招いてのボランティアイベントなのだ。
紅葉は喜んで参加したい!と長靴に履き替え、平九郎も連れて子供たちと歌を歌いながら畑に向かった。
予定にはなかったが、みなも付いていくらしい。軍手やビニール袋など荷物を抱えながら光輝が喜んでいる。
凪と誠一はスタッフと引き続き片付け作業だ。
「似合うね、それ。」
ネックレスのことを言われて「どーも」と短く答える凪。
「もう1年だっけ?早いねー。
忙しくても安定してるからあっという間でしょ?」
「そこはホントに…そう思う。
歳取るの早く感じるんだろーね…。」
「ははっ。
幸せなことだよ。」
来年には凪たちも指輪してそう~という誠一の台詞に凪はこれから先の1年がまた楽しみになった。
さつまいもをお土産に戻ってきた紅葉と平九郎は泥だらけだったが、とても楽しかったそうだ。
「今度焼き芋作るんだって!
僕も食べに行く約束したよ。」
再会を約束し、こどもたちをが乗る貸し切りバスを見送ると一度自宅に帰り、2人で協力しながら平九郎を洗い、交代でシャワーを済ませ着替えると馴染みのドイツ料理レストランへ向かった。
車で少し眠った紅葉は疲れ気味ではあるが、充実した笑顔で夫妻にハグをした。
「おいもどうぞ。さっき僕が掘ってきたんだ!」
「ありがとうー!美味しそうね!
紅葉くん、お誕生日おめでとう。
ケーキは食べたって聞いたからフルーツとアイスをサービスするわね。
凪くんビールは?」
「わぁー!」
「すみません、車なんで。」
「残念…。あ、持って帰る?
他にお客さんもいないし、レッスン始めようか!頑張ったらビール一瓶プレゼントするわ。」
「お手柔らかに…(苦笑)」
月1~2くらいだが、夫妻の店にくると英語とドイツ語を交えての会話を練習させてもらっているのだ。
まだまだ凪は聞き取ることから練習中だが、さすがミュージシャンと言うか、歌やリズムにのせると覚えやすいことに気付き、家でも紅葉と一緒に練習をしている。
帰り道の車内…
「僕も日本の免許とろうかな…。」
「えっ?! マジで?」
珊瑚と共にドイツで免許を取ったらしいが、紅葉はトラクターより遅くて全く運転させてもらえなかったと聞いている…。
凪は都内でそれはヤバいとなんとか止めてみる。
「とりあえずまだいいんじゃない…?
都内、けっこう運転怖いとこ多いよ?」
「でも…凪くんいつもお酒飲めないし…!
長距離も大変だし…!」
「…ありがと。今のとこ大丈夫だよ。
飲みたい時は電車とかタクシー使うし…、そもそも最近ずっと家飲みだしね。
ほら、地方行くのもスタッフ付いてくれるようになったし、長距離も旅行とか俺の実家くらい?
俺、運転好きだからさ…。
あ、実家行くとき、途中で1泊するとかもありだよな。」
「いいね、それ。
…でも免許のことはもう少し考えてみるね。
多分…こっちで取り直す方がいいと思うし…。
国籍のことも考えてからにする。」
「そっか…。」
父親がドイツ国籍、母親はイギリスと日本のハーフだが国籍は日本国籍だったので珊瑚と紅葉は多重国籍なのだ。
珊瑚は去年日本に来て肌身でいろいろと感じ、帰国後にドイツ国籍を選ぶことを決めてさっさと手続きしたらしい。
凪としてはもちろん紅葉にはこのまま日本に残って欲しいので日本国籍を選んでもらいたいが、さすがに紅葉自身が自分で決めるべきなのだろうと口出しせずにいる。
日本国籍を選んでもドイツ国籍を選んでも、紅葉は紅葉だし、一緒にいることには変わらないからだ。
(ドイツ国籍を選んだ場合、大学卒業後、定住ビザを取らないといけないが…)
「まだあと2年あるからゆっくり考えな。」
「うん…。」
ともだちにシェアしよう!