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【久しぶりのデート 1】

12月上旬 「紅葉くん、たまにはデート行こ?」 「デート?!行く行くー! えっ、どこ行く?いつ行く?! 何着て行ったらいいかなぁー? あ、平ちゃんも連れて行くっ?」 「うん…一回落ち着いて…?(笑) 仕事あるから遠出は無理だけど、久々に2人で出掛けようよ。」 日常でも仕事でも一緒にいる2人だが、凪からのデートのお誘いに興奮する紅葉。 最近は仕事と大学で忙しいのでなかなかプライベートの時間が取れないのだが、そんな時こそデートは必要だと凪が言ってくれた。 スケジュールを見ながら調整して、紅葉の大学が休みの土曜日にデートすることに決めた。 午前中に動物園へ行き、午後は少し仕事の打ち合わせへ行き、一度帰宅して平九郎の散歩やご飯を与えて、自分たちも食事に出ることにした。 ちょっとバタバタするが、紅葉はとても楽しみにしている。もちろん凪も。 そして当日… 「凪くん、早くっ! ご飯の時間になっちゃう!」 「はいはい…。 人が多いから迷子になるなよ?」 「じゃあ…手、繋いでもいい?」 小走りで前を歩いていた紅葉は振り返りながら凪の顔を覗き込んでそう聞いてきた。 「……ん。」 園内は人が多くて少し迷ったが、凪はそっと左手を差し出した。嬉しそうに凪の隣に並んで自分の右手を重ねた紅葉。なるべくくっついて、繋いだ手が人目をひかないようにする。 一応、変装というか、とりあえず対策はしてきた。 紅葉は黒縁の伊達眼鏡をかけて黒の帽子を被っている。凪も同じ帽子とサングラス。 カットソーの上にパーカー、ジーンズ、スニーカーを合わせたラフな紅葉と、凪は長身によく似合うVネックの黒インナーとジャケットパンツ、ブーツ…全身黒だが、重すぎない感じに整えている。 もちろんお揃いのネックレスも身に付けて。 真冬だが、今日は季節はずれの暖かさでデート日和。 ジャケットとパーカーでも暖かいねと、2人は顔を見合わせて微笑むと先へ進んだ。 辿り着いたのは紅葉が下調べして事前予約をしたキリンの餌やり体験の列。 チビッ子たちに混ざって並び、写真を撮って順番を待つ。 「おっきいー! 睫毛長い…いいな。」 「…十分でしょ? 紅葉ー、食われないでね。」 「えっ?!噛むのかな?」 「さぁ…?慣れてるから大丈夫じゃない?多分ね。」 ちょっとビビる紅葉をからかいながら前の人たちが餌をやるのを眺めていた。 もうすぐ順番だと、わくわくする紅葉。 少し前の親子が何やら揉めているようだ。 しばらくすると、親子は列から離れて、泣き出す4~5才くらいの男の子… 「どうしたのかな?」 「キリンにビビったか…、予約チケット持ってなかったんじゃね?」 平日は定員に余裕があれば、当日並ぶとチケットを買えて参加出来る餌やりイベントも土日祝日は混雑するため事前予約制なのを知らなかったのかもしれない。 もちろんこどもにそんな事情は理解出来ないので、道端に寝転んで泣き叫ぶ男の子とオロオロする両親の姿に周りの人も同情の目を向けている。 凪もなんとかしたい気持ちはあったが、チケットは紅葉一人分しか取ってないし(凪は紅葉の撮影係り)、こうなってしまった幼子の扱いを知らない。 「凪くん、ちょっと待っててね! あ、そのまま並んでて。」 紅葉は一人列を抜けて、男の子の元へ走っていった。 「こんにちは。 チケットがないの? 大丈夫だよ!僕が持ってるから! 一緒においでよ。」 戸惑う両親に自分が一緒に付き添うからと説明する紅葉。 「パパとママは写真撮ってくれるって。 大丈夫、側にいるよ。 あ、きりんさん待ってるよ、行こう!」 ニコニコと笑顔で目線を合わせてぐずり続ける男の子の手を引く紅葉。両親もついてきてもらい、後ろの人に断ってから凪の隣に戻る。 「凪くん、サングラスが怖いよ…。」 「あ、ごめん。 …何くん?」 紅葉に言われてサングラスを外す凪。 確かに全身黒尽くめだし、厳つく見えるだろう… 素顔を見せて両親にも軽く会釈をする。 「いつきくん!4才だって。 さっちゃんと同じ。 あ、凪くん、写真よろしくね!」 すぐに順番がきて、紅葉がチケット画面を見せると、いつきくんを抱き抱えてキリンの餌やり体験をした。 涙の溜まった目をしていた男の子は目の前のキリンの迫力に少し驚きながらもみるみるうちに笑顔を見せた。 その笑顔を見て、紅葉もとても嬉しそうだ。 何度もお礼を言う両親に恐縮しながらいつきくんに手を振ってまたねと告げる。 「良かったの?譲っちゃって…。 夕方のチケットまだあったら取ろうか?」 何日も前から楽しみにしていたのを知っていたので、凪は気になって聞いてみるが… 「ううん、大丈夫! いつきくんと一緒に出来て良かったよ。 それに僕の夢はこどもたちに笑顔になってもらうことだから、今日ちょっと叶ったよね。」 本心なのだろう、少し誇らしげに、でも照れ臭そうに笑顔でそう告げる紅葉… 凪はその頭を帽子の上からぐしゃりと撫でた。 「わわっ!髪の毛が…っ!」 「おいで。 いいことをしたご褒美にお兄さんがジュースを買ってあげます。」 「やった!」 寒空の下、ジュースよりアイスがいいという紅葉。食べてから園内を見て回り、恒例のお土産タイム。 今日はさすがにキリンを選ぶだろうと思っていたが、凪の予想に反して紅葉が選んだのは猫だった。 「猫? お前…わざといない動物探したでしょ?(笑)」 「寒いから…ほら、コタツ付きなの。」 なんて変な土産だと笑いながら少し遅めの昼食を食べに向かう。 場所は紅葉がセレクトしたラーメン屋。 「旨いね。」 「うん!大学の友達に教えてもらったんだ。」 冷えた身体も温まり、ここは紅葉にご馳走してもらって場所を移動する。

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